先日、日本音楽著作権協会(JASRAC)が、利用手続を行わずにBGMを流していた美容室などの事業者に対して簡易裁判所に民事調停を申し立てたというニュースがありました。
なぜBGMを流すだけなのに手続や費用の支払いが必要なのか?しかも自分が購入したCDや配信音源なのに??
店舗でBGMを流す際に知っておくべき著作権法の規定について考えてみます。
音楽再生は「演奏」
そもそも、BGMを流すためになぜJASRACにお金を払う必要があるのか?
それは音楽の再生は著作権法で規定されている「演奏権」(著作権法第22条)が関係するためです。
”演奏権”という言葉だけを聞くと、楽器を生演奏するライブやコンサートなどの話で、CDやネット配信された曲をBGMとして流すこととは関係が無いように感じられるかもしれません。
しかし、この”演奏”には、いわゆる楽器演奏や歌唱に限らず、CDなどに録音された音源の再生も含まれることとされています。
著作者はこの演奏権を専有すると定められていますので、著作者以外が”演奏”するためには著作者から許諾を得る必要があります。
JASRACは権利者の代理ではなく「著作権者」
著作者が専有する演奏権ですが、演奏権などの著作権は他者に譲渡することができます。
それによって、「著作権者」と「著作者」が異なる場合があります。
音楽の場合は特に「著作権者」と「著作者」が異なる分野となるのですが、それは著作者が自身の著作権を著作権管理事業者に譲渡することが一般的となっているためです。(なぜ一般的なのかは、また後日。。。)
なお、JASRAC等への譲渡は必須ではなく、譲渡してない作詞家・作曲家の方ももちろんいらっしゃいます。
また、著作権管理事業者はJASRACだけではなく、イーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランスが合併してできたネクストーンなどがあります。
そして、その著作権の譲渡先となる著作権管理事業者の中で最も取扱数が多いのがJASRACとなります。
つまり、JASRACは「演奏権を有する著作権者」として、自身が持つ権利を行使することになります。
権利者の代理ではなく、JASRAC自身が権利者だという点が重要です。
それにより、演奏権についての許諾や、それに対する対価の徴収などを行っていることになり、使用料を支払わない事業者などに対して自身の意思で法的手続などを行うことができます。
BGMとしての利用には権利者の許諾が必要
実は、2002年4月まで、JASRACへの手続無しでCD等をBGMとして流すことは「適法」でした。
そのため、以前から店舗経営されている方の中には、BGMにはお金を払わなくても良いと考えている方もいるようです。
ですが、先述のベルヌ条約に違反している可能性があることから、著作権法改正により権利者の許諾が必要となりました。
(参考)以前は、著作権使用料がいらなかったBGM利用に、手続きが必要になったのはなぜですか。
CD等の再生は制限規定に該当しない
著作権法には、権利者の権利制限規定として、権利者の許諾無く著作物を利用できるケースが何点か規定されています。
演奏権については、第38条第1項にて「営利目的ではなく(非営利)、聴衆から対価を得ず(無償)、演奏者等実演家に報酬を支払わない(無報酬)」である場合には権利者の許諾無く上演・演奏・上映・口述ができるとされています。
ですが、美容室や喫茶店といった店舗でBGMとして利用する場合は、営利目的の事業を行う場所での利用となりますので、「非営利」という条件をクリアできません。
たとえ事業内容とは直接の関係がない「BGM再生」であり、そもそもお客様からBGMの対価をもらっていないと言っても、その流す場所(店舗)というものが営利目的で存在するためです。
ラジオ放送をそのまま流すのはOKな場合がある
これまで演奏権について説明してきましたが、著作権の中には「伝達権」(第23条第2項)というものもあり、「公衆送信(放送など)される著作物を受信装置を用いて公衆に伝達する権利」とされています。
そして伝達権について、「放送される著作物を通常の家庭用受信装置を用いて伝達する場合」には権利者の許諾が不要と規定されています(第38条第3項)。
ですので、業務用の特別な装置ではなく、家庭用の一般的なラジオやテレビを使ってラジオを流したりテレビを見せたりすることについては、JASRACへの手続と支払は不要となります。
ただ、ややこしいのが、通常のラジオ放送はOKでも、インターネットラジオを流すには権利者の許諾が必要です。
これは、ラジオ放送が「伝達権」に対し、インターネットラジオは「公衆送信権」に関するものであるため、「家庭用受信装置を用いての”伝達”はOK」という規定に該当しないためです。
(参考)お店でラジオの放送をBGMとして流す場合、音楽著作権の手続きは必要でしょうか。また、AM・FMなどのラジオ放送とインターネットラジオでは、手続きに違いがありますか。
ストリーミング配信は商用利用できない
ここまでの説明では「自身が購入したCDを店舗で流す場合」を想定したものでしたが、近年はSpotifyやApple Music、Amazon Musicなど音楽をストリーミング配信するサービスを利用して聴く機会も増えました。
しかし、これらのサービスは利用規約によって基本的に個人による非商用目的に限って利用許諾されていることが多く、そのようなサービスの場合は店舗で流すなどの商用利用は認められていません。
以下、いくつか代表的なサービスの利用規約を引用します。(太字は筆者によるものです)
参考)Spotify
お客様が本規約 (その他の適用される契約条件を含む) を遵守することを条件として、弊社は、Spotify サービスおよび本コンテンツを個人利用および非商業利用することができる、限定的、非独占的、取消可能な許可 (以下総称して「アクセス」) をお客様に付与します。
(引用元:Spotify 利用規約 3. Spotify サービスの利用 > Spotify サービスを利用する権利 )参考)Apple Music
お客様は、個人的、非商用目的での使用に限って本サービスと本コンテンツを利用することができます
(引用元:Apple メディアサービス利用規約 B. 本サービスの利用 > すべてのサービス:)参考)Amazon Music
お客様は、お客様個人の非商用的な娯楽目的に限り、本サービス等を利用することができます。(中略)アマゾンは、本契約に従うことを条件として、お客様個人の非商用的な娯楽目的に限り、購入音楽、ミュージックサービス音楽および本サービス等を通じてアクセスを提供するその他の音楽コンテンツを使用する非独占的で、譲渡不能な権利をお客様に対し付与します。上記に規定されている場合を除き、お客様は、購入音楽またはミュージックサービス音楽の再配信、送信、譲渡、売却、放送、賃貸、共有、貸与、別目的での使用、変更、翻案、編集、ライセンスまたはその他の移転もしくは使用をしてはなりません。
(引用元:Amazon ミュージック利用規約 3. 権利及び制限 > 3.1 付与される権利)参考)YouTube Music
本サービスの利用には制限があり、以下の行為が禁止されています。
9. 本サービスを個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用すること(たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません)。
(引用元:利用規約 本サービスの利用)
つまり、店舗などで利用することは多くのストリーミングサービスにおいて利用規約違反であり、同時に著作権者の演奏権を侵害する行為であるといえます。
規約違反行為、および違法行為を行わないよう、十分にご注意ください。
JASRACへ手続を行うか、有線放送事業者と契約を
このように、たとえ自分で購入したCDや配信楽曲であっても、BGMとして利用する場合は「演奏権」の処理(対価の支払い)が必要であることから、JASRACに申請手続を行うことになります。
店舗面積が500m2以下であれば、年間¥6,000(※2016年7月4日現在)を支払うだけで、JASRAC管理曲を自由にBGMとして流すことができます。
あるいは、店舗に変わって利用料を支払うことになっている有線放送事業者のサービスを利用されることをご検討ください。
多くのアーティストが苦労して生み出した大切な曲です。
営利活動に関連して利用するのであれば、民事調停を申し立てられるほど揉めたり拒んだりするのではなく、正しく対価を支払うべきではないかと思います。
BGM利用の際は、JASRACのこちらのページもご確認ください。
BGM お店などでBGMをご利用の皆様へ JASRAC