”似ている著作物”は、どこまでがセーフで、どこからが著作権侵害なのか。
このブログでも著作権侵害についての記事へのアクセスが最も多いことから、多くの方が気にしている点だと思います。
著作権侵害については、複製権や公衆送信権の侵害であれば、比較的容易に白黒つけることができます。
テレビ放送を許可無くYouTubeにアップロードする、ネットで拾った写真をブログに掲載する、PCソフトをコピーするといった行為であれば、複製権や公衆送信権の侵害である可能性が高いです。
その状況から、複製されていることや公衆送信、送信可能化されていることが明白だからです。
それとは異なり、難しいのは「似ている・似ていない」といった、翻案(改変)に関わるものです。
ブログやSNSなどを見ていると、おそらく多くの方が「似ている=著作権侵害」だと考えているかもしれませんが、実際にはそれほど単純ではありませんので注意が必要です。
翻案とは
以前、2020年東京オリンピックのエンブレム問題もありましたが、あれも「似ている・似ていない」という点が大きく取り上げられました。
ではなぜ「似ている?」という問題が「翻案」なのか。
そもそも翻案とは、既存の著作物を基に新たな著作物を創作することです。
ニコニコ動画や同人活動における二次的著作物、マンガを原作とする映画などが該当しますが、こういった作品を作る権利は著作権法第27条での規定により、著作権者が専有しています。
つまり、著作権者の許可無く、その権利者の作品を基に新たな作品を作ることは翻案権の侵害となる可能性があります。
「似ている作品を作る」、いわゆる”パクる”ということは、通常その基となった作品が存在しますから、検討する必要があるのは翻案権侵害の成否ということになります。
偶然の一致もあり得る
これまでの説明にもあるとおり、著作権侵害となるのは既存の著作物を基に創作した場合です。
逆に言えば、既存の創作物を基にしていないのであれば、著作権(翻案権)侵害とはなりません。
著作権とは創作と同時に自動的に生まれる権利です。
著作物の要件を満たせば、登録や申請の手続きは一切必要なく、また早い者勝ちでもなく、(最初は)著作者に帰属する権利です。
つまり、互いの作品を知らない物同士が偶然に同じような作品を創作することは権利侵害ではなく、双方が自身の作品に対して著作権を持つわけです。
また、著作権のポイントとして「アイデアは保護されない」「ありふれた表現は保護されない」という点があります。
そのため、例えば「お寿司を擬人化したキャラクター」を作る場合、その”お寿司を擬人化”というものはアイデアですので著作権法では保護されず、誰でもこのアイデアを基にキャラクターを作ることができます。
さらに、ありふれた表現も保護されませんから、お寿司を擬人化というアイデアの時点で、「お寿司」も「人」もその表現自体はありふれたものとなる可能性は高く、結果としてそれらを合体させたキャラクターとして表現される形状はある程度絞られてきます。(寿司に顔がある、手足がある、等)
よって、仮に”お寿司を擬人化したキャラクター”が別々の人から発表されたとしても、それだけでは著作権侵害だと断定することができないことになります。
依拠&本質的な特徴を感じ取れるか?
では、どのような場合であれば翻案権の侵害となるのか。
この点においては、「江差追分事件」(最判平成13年6月28日)で示された基準がその後の多くの裁判で適用されていて、事実上、翻案権侵害となる場合の要件を示しています。
その要件とは、
- 既存の著作物に依拠している
- その表現上の本質的な特徴の同一性が維持されておりそれを直接感じ取ることができる
とされており、この要件を2つとも満たす著作物を創作した場合に、翻案権侵害となるようです。
いわゆる”パクり”
このように、翻案権侵害となる要件として大きな点は、許可無く既存の著作物を基にしている、専門用語で言えば「依拠」、俗語では「パクっている」必要があります。
先述のとおり、パクられたとされた側の著作物を知らないのであれば、それは依拠していないことになり、翻案権の侵害とはなりません。
つまり、翻案権侵害だと言うには、エンブレムであれば訴えた側の劇場のロゴを知っていてそれを基にしたこと、お寿司キャラクターであれば相手方のキャラクターを知っていてそれを基にして創作したことが立証されなければなりません。
実際の裁判においては、相手方が「パクりました!」と白状することは考えにくいため、間接証拠を揃えて実証するという場合が多いようです。
本質的な特徴を残した著作物であるか
翻案権侵害の成否のキモとなるのが、”表現上の本質的な特徴を直接感じ取れるか”となります。
逆に言えば、とある著作物を基に創作したとしても、独自の創作性を多く取り入れたことにより基の著作物の特徴が感じられないほどになった場合は、翻案権侵害とはならない、ということになります。
実際の裁判においては、この”表現上の本質的な特徴”とは何かが大きなポイントとなりますが、各案件ごとに詳細に検証されるもので、アウトかセーフかの明確なラインは実際のところ存在しません。
そもそも争われている著作物によって”表現上の本質的な特徴”となる箇所が違うということもありますが、その箇所についても何がセーフで何がアウトなのかの判断が、裁判によって異なるためです。
翻案権侵害とされた事例としては、編曲権侵害が問題となった「記念樹事件」(東京高判平成14年9月6日)、逆に侵害が否定された事例としては「釣りゲーム事件」(知財高判平成24年8月8日)などがありますが、それぞれ原告・被告の著作物を詳細に比較し、本質的な特徴の有無を判断しています。
翻案権侵害となる火種は多い
芸術作品だけに限らず、ビジネスにおいても既存の著作物、例えば挿絵や写真、ブログ記事、競合他社の製品やデザインなど、何らかの著作物を参考にして新たな著作物を創作するケースは非常に多いと言えます。
つまり、油断しているとただのパクリになってしまい、翻案権の侵害へとつながってしまうリスクが潜んでいることになります。
単なるパクリで終わらないよう、自身の創作性を十分に加え、新たな著作物を創作するよう留意が必要です。
また、ちょっとでも似ているからといってすぐに「パクリだ!」と言うのではなく、実際には翻案権の侵害といえるのかどうかを慎重に検討する必要があることも知っておきたいですね。