著作権契約書作成支援システムの利用時に気を付けたいこと

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出典: Good morning / PIXTA(ピクスタ)

先日、文化庁から「文化庁著作権契約書作成支援システム」(以下「本システム」といいます。)がリリースされました。

いくつかの質問に答えるだけで、原稿や写真、音楽、イラストなど様々な著作物の作成に関する契約書のひな形を無料で作成することができるという、とても画期的なシステムです。

契約書を作成するという行為は、特に慣れていない方にはハードルが高いものですが、このシステムを利用することで基本的なものを作成することはできると思います。
これにより、例えば「大変だから契約書は作らない」と考えている方でも、書面による契約締結に対して前向きに検討いただけるのではないでしょうか。

※この記事は2022年4月25日現在の本システムの仕様を基に書かれています。改定等により仕様や出力される文案が異なる場合がございますのでご注意ください。

プロは要注意

しかし、このシステムで作成する契約書は、あくまで最低限の基本的なところまでです。

それもあってか、トップページに「注意事項」として、以下のように明示されています。

このシステムは、著作物の創作や演技・演奏等の実演を職業としない者とその利用を職業としない者の契約(一般人どうしの契約)を想定して開発されています。
(引用元)https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/index.php

つまり、例えば企業からフリーランスのイラストレーターに依頼するといった、業務として依頼する場合は想定していないものですし、

実際の契約は、当事者間で様々な条件が設定されるのが通常ですので、実際に利用する場合は、このシステムで作成した契約書案を、自分のパソコンにコピーの上、手直しして使ってください。(このシステムで提供する契約書案の著作権は主張しません。また手直しも自由です。)
(引用元)https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/index.php

手直しして使うことが前提となっているようです。

実際、業務として著作物の制作を委託し、また受託する際には、様々な条件や合意事項が存在します。
これらは決してひな形として定型化できるものではありませんので、契約の当事者や目的などによって変わります。

よって、本システムで作成した契約書をそのまま利用するのではなく、契約当事者で合意した契約内容となるように加筆や修正を行った上で、利用することが望ましいです。

たとえ文化庁が提示した契約書文案であっても、それ自体に一定の拘束力があるものではありません。あくまで相手方があっての契約ですね。
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あくまで”著作権契約”?

また、実際に利用して契約書文案を作成してみましたが、著作物の作成委託に関する契約書として不足している、またこの規定ではトラブルの元になりかねない、と感じられる点も散見されます。

そもそも本システムが”著作権契約”作成の支援という立ち位置だからなのか、おおまかに言えば著作物の「作成」と「作成業務の遂行」に関する規定について不足や懸念が多い印象です。

例として、私(筆者)が、フリーランスのイラストレーターAさんに対して、このブログ内で利用するイラストの作成を依頼する場合の契約書を作成してみたところ、以下のような条項がありました。

ここで気になるのが、2項と3項です。

2項では、「納入物に瑕疵がある場合」や「乙(=委託者)の企画意図に合致しない場合」は、「速やかに乙の指示に従った対応をする」ことが定められています。
いわゆるリテイク、修正の規定で、一般的に一発で委託者の要望に100%沿った成果物が提出されることは珍しいと思いますので、このようなリテイクに関する規定を設ける意図は理解できます。

しかし、この条項では、そもそも「瑕疵」や「企画意図」が定義されていませんので、どういう場合に検査不合格となるのかが明確ではなく、受託者であるイラストレーター側は非常に不安定な状態となります。
それに加え、「委託者の指示に従った対応」が求められますので、例えば委託者からの「1時間以内に全部描き直し!」といった無茶な要求であっても従うことが求められてしまう可能性があります。

そもそも「対応」が何を指すのかも定義されていませんので、例えば報酬減額や契約解除を求められる可能性もゼロではないと思います。

つまり、イラストレーター側にとっては著しく不利な状況になり得ますので、まったくお勧めできる条項ではありません

また3項についても、納品物は1項で示されている通り「JPEG」ファイルという画像のデジタルデータであるため、CD-RやUSBメモリ等にJPEGファイルを保存して納品した場合を除き、そもそも所有権は発生しません。
仮に所有権が発生した場合であっても、その所有権の移転とともに著作権等他の権利も移転していると勘違いされるケースもあり、余計なトラブルの元となり得ます。

納入物は有体物であるという前提なのでしょうか?
なお、設定項目で「納入物の返却」についての設定もあるのですが、「利用が終わり次第速やかに甲に返却する」とされているだけで、その他細かい条件や複製物等については言及されていません。

他にも、

著作者(この場合はイラストレーターAさん)に帰属し移転できない著作者人格権ですが、このような規定では、少しでも拡大・縮小する場合はその都度Aさんに問い合わせて承諾を得なければなりません。
今回の例はブログで利用するためのJPEG画像ですから、拡大・縮小が必要となる場合はかなり多いことが想定され、この規定のままでは利用する側はもちろんAさんとしても非常に煩わしいことになってしまいます。

このような事情から、賛否はありますが「著作者人格権の不行使特約」と呼ばれる著作者により権利行使を制限する規定が設けられる場合も多いです。
著作者人格権については、当ブログの別の記事もご参照ください。

また、2項で「著作者の表示をすることを要しない」とされており、著作者、つまりAさんのクレジットを入れる必要はないということなのですが、禁止しているわけではないため、クレジットを入れても問題無いということも意味します。
ここで、委託者が親切心でAさんのクレジットを表示しようとして、Aさんが普段利用しているペンネームではなくAさんの本名や別名義を表示してしまう、というおそれもあります。

著作権関連では、「甲は、乙に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。」という条項もありますが、仮に第三者の権利を侵害していた場合の対応については規定がありません。

このように、生成された契約書文案のままでは、実務上悪影響が出てしまうこともあるかもしれません。

今後に期待

他にも、例えば再委託の可否や、契約解除、秘密保持、反社会的勢力の排除といった一般条項も存在しないため、状況によってはこれらの規定を設けたほうが良いこともあります。

このような判断もケースバイケースであるため、プロのクリエイターの方たちは、基本的なひな形として本システムを利用したとしても、細かいところは専門家に依頼して加筆修正してもらったほうが安心かと思います。

このように、まだまだ著作権契約書の作成システムとして万能とはいえない印象はありますが、しかしこういったシステムが文化庁から提示されたというのはとても有意義なことであることは間違いありません。

もっと多くの方が、もっと便利に、もっと手軽に契約書を作成することができるよう、今後のバージョンアップに大いに期待しています。

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