メタバース空間内でのダンスと著作権問題

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出典: CYCLONE, toyotoyo (from: Adobe Stock)

昨今盛り上がりを見せている「メタバース」はご存じでしょうか?
簡単に言えば「インターネット上にある仮想空間」ということで、自身の分身(アバター)を操作して他の人とコミュニケーションするところで、細田守監督の大ヒット映画『竜とそばかすの姫』に登場する<U>もこのメタバースですね。

そのメタバース空間内ではアバターが自由に動き回ることができるため、一部では有名なダンスを踊る、いわば”踊ってみた”系であったり、ライブイベントとしてのパフォーマンスをする方もいらっしゃるようです。
ダンスといえば、振り付けは「舞踏の著作物」(著作権法10条3号)として著作権保護されていることも多く、現実世界ではそのダンスを多くの人に見せる場合は原則として著作権者の許諾が必要です。(※後述する「上演権」)

では、メタバース空間内でのダンスパフォーマンスはどうなのか?について考えてみたいと思います。
(※本記事ではダンスを対象としていますが、例えば歌唱パフォーマンスなど、著作物を演じること全般も同様です)

なお、本記事はあくまで筆者の考えであり、司法上確定しているものではありませんのでご留意ください。

上演できるのは著作者のみだが例外あり

メタバース空間上でのダンスパフォーマンスを考える上で、まず著作権法(以下「法」といいます)での基本ルールから見ていきます。

なお、ここでのダンスパフォーマンスとは、他人が考案した振り付けをそのまま(完コピして)踊ることを指しており、自身が考案した振り付けを踊ることは対象としていません。

メタバースか現実かに限らず、ダンスパフォーマンスとは演奏以外の方法で”振り付け”という著作物を演じることですので、「上演」(法2条1項16号)に該当すると考えられます。

ちなみに、上演に該当するか否かを問わず、アバターがダンスを踊ったらそれは「実演」(法2条1項3号)であり、アバターを操作している者が「実演家」(法2条1項4号)に該当するとは考えられますが、ただこれはこれで難しい問題のためここでは割愛します。

そして現実世界の場合、その上演を公衆(※多数または不特定少数の人)に見せることができる権利というのは、上演権及び演奏権(法22条)として著作者が専有すると定められています。
つまり、公衆にダンスパフォーマンスを見せることができるのは著作者のみであり、それ以外の人は著作者またはその著作者から権利譲渡された著作権者(以下「権利者」といいます)から許諾を得なければならない、ということになります。
これが原則です。

上演権が及ぶのは”公衆に直接見せることを目的としている”場合ですので、公衆ではない友人数人や家族に見せるために踊る場合、そして練習のために踊るような場合は権利者の上演権は及ばず、権利者の許諾不要で自由に踊ることが可能です。
(ただ、練習目的だとしても多くの人が目にする場所で踊った場合は判断が難しいですが…。)
なお、上記目的をもって行われたのであれば、結果的に誰も見なかったような場合であっても上演権が及びます。

ただし、例外として、観衆から料金を徴収せず非営利目的で行われるダンスで、さらにダンスを踊る人に報酬が支払われない場合に限り、権利者の許諾がなくても公衆の前でダンスパフォーマンスを行うことができます(法38条1項)

この例外規定により、現実世界の場合は非営利・無償・無報酬なのであれば無許諾でダンスパフォーマンスできるのでは?とも考えることができそうです。

ちなみに、非営利・無償・無報酬ならどんな場合でも許諾不要でダンスパフォーマンスを見せることができる、という誤解は根強い印象があります。
法38条1項が対象としているのはあくまで上演、演奏、上映、口述のみであり、それ以外は対象外です。YouTubeやTikTokなどに投稿される「踊ってみた動画」でも同様の問題があり、これらは上演だけでなく公衆送信が行われており、また投稿前に録画(=複製)している場合も多いですので、この法38条1項の規定や、私的使用のための複製(法30条1項)をもってしても無許諾では行うことができないと考えられます。
一部の弁護士のウェブサイトで”踊ってみた動画”が法38条1項に該当し合法であるとする旨の記述がありますが、YouTubeなどに投稿する場合は、それは誤りであると筆者は考えています。(上演権が制限されるなら、同じ法22条で規定される演奏権も制限される(=無許諾で利用できる)はずですが、それではなぜJASRACやNexToneがわざわざYouTube等と包括利用許諾契約しているのか…?)
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「公衆送信」への該当性

しかし、ここで大きな問題があります。
それは「現実世界と同じように、メタバース空間内でのダンスパフォーマンスでも上演権だけを検討すれば良いのか?」という点です。
もちろん、ダンスパフォーマンス自体は先述のとおり上演なのですが、他のアバターはその上演を直接見ているのか?という点が問題になります。

観客側のアバターとしては、現実世界でのライブイベントや路上パフォーマンスを見ることと同じように、感覚的にはダンスパフォーマンスを直接見ているのかもしれません。

しかし、メタバース空間で演じられている以上、それを発信し、そして受信するためには必ず「インターネット」が介在します
このインターネットを通じた送受信は、「公衆によって直接受信されることを目的として送信された無線通信または有線電気通信」ですので、「公衆送信」(法2条1項7号の2)に該当します。
よって、メタバース空間内で行われたダンスパフォーマンスの上演は、公衆送信されることによって受信者である観客側アバターの所有者の端末に表示されている状態であると言えるのではないでしょうか。

言い換えれば、「上演が公衆送信されている」状態です。

少なくとも筆者にはメタバース空間内のダンスパフォーマンスが公衆送信に該当しないとする根拠を示すことができません。

そして、公衆送信できる権利である公衆送信権も権利者が専有していますので(法23条)、メタバース空間内で公衆に向けてダンスパフォーマンスを行うためには権利者からの許諾が必要である、と考えられます。

「公衆ではない」という考えも

上記のような結論を示しますと、「いやいや、閉鎖されたメタバース空間であれば観客も限られ、公衆ではないでしょ?」と思うかもしれません。

メタバースだから公衆、ということではなく、本当に(公衆に該当しない)特定少数だけが見ることができるパフォーマンスであれば、公衆送信には該当しないのかもしれません。

しかし、例えば5人しか入ることができない空間で行われたものであっても、その5人というのは誰でも該当する可能性があるような場合(例えば「先着5名限定!」など)は”不特定少数”に該当し、”公衆”の範囲に入っていると考えられます。

「まねきTV事件」最判H23.1.18、「ジェーネット事件」東京地判H23.9.5、「MYUTA事件」東京地判H19.5.25などを参考

このように、公衆(そして公衆送信)なのかは、実態によって判断されることとなります。
観客人数が少ないから公衆ではない、ということではない点にご注意ください

まとめ

特定の少人数だけが見られるようなものでない限り、メタバース空間であっても他のアバターが見ることができる状況でダンスパフォーマンスを行う場合は、振り付けの権利者からの許諾が必要であると考えられます。

もちろん、無許諾であっても黙認されている場合も多いとは思いますが、ただこれは決して”無許諾でも問題ない”ということではありません。
また、冒頭に記したとおり、この見解は筆者の私見であって、確立されたものではありませんが、現行法や判例を勘案する限りこの見解が導き出されると考えています。

適切な権利保護意識を持った上で、メタバースを楽しみたいですね。

※2021/11/25 18:20修正
初稿ではメタバース空間内の上演にも上演権が及ぶと解釈できる文言になっておりましたので修正しました

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