卒業式や謝恩会、スライドショーなどでの音楽利用

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まもなく卒業や卒園のシーズンとなりますが、卒業記念DVDを作成したり、祝賀パーティーや謝恩会、茶話会などでスライドショーを作成して上映したりする場合も多いと思います。

そのパーティーやスライドショーなどに欠かせないのが、会場や動画を盛り上げてくれるBGMなどの「音楽」であると思いますが、音楽といえば一般的には著作物であるため、その利用は著作権法に則って正しく行う必要があります。

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著作権だけでなく著作隣接権も要考慮

まず、音楽に関係する著作権にはどのようなものがあるのかを考えてみます。

最初に思い当たるのは、作詞者と作曲者が有する、財産権としての著作権(以下、単に「著作権」と言った場合はこの権利のことを指します。)が考えられます。
この著作権は、作詞者や作曲者に発生するものですが、特に市販されるCDなどではこれらの権利が日本音楽著作権協会(JASRAC)に譲渡されていることが多いため、この場合は権利者はJASRACとなります。

JASRAC以外にもNexToneなどの著作権管理団体が管理している場合もあります。またこのような団体に譲渡せず、作詞者や作曲者自身が管理している場合もありますので、誰が権利者なのかは確認が必要です。

さらに、音楽の場合はこの著作権だけではなく「著作隣接権」も大きく関係してくるのが特徴です。
音楽に関係する著作隣接権は2種類あり、CDや配信音源を複製(プレス)する基となるマスター音源(一般的には「原盤」と呼ばれます)を制作した者が有する「レコード製作者の権利」と、その原盤に収録されている音を演奏したり歌ったりした者が有する「実演家の権利」があります。

※(参照)著作隣接権とは?
※(参照)実演家の権利
※(参照)レコード製作者の権利

実際には、実演家の権利(実演家人格権を除く)については、原盤を制作する際に、その原盤を制作するレコード会社やレーベル、プロダクション、芸能事務所などが実演家から譲り受けているため、このレコード会社などが有するレコード製作者の権利と実演家の権利が融合した、一般的に「原盤権」と呼ばれる権利をレコード会社などが有している状態が多いです。

つまり、音楽を利用するためには、JASRACなどの著作権管理者からの許諾が必要であり、さらに市販CDや配信音源を利用する場合はレコード会社などの原盤権管理者からの許諾が必要となるのが原則です。

※必ず上図のような契約状態になっているとは限りませんので、利用の際は確認が必要です

許諾が必要な音楽利用方法

許諾が必要であると言っても、どのような利用に対しても必要となるわけではなく、それは著作権法で定められた方法で利用する場合に限られます。
今回の設問の場合、次の場合が想定されますので、原則的には下記の利用を行う場合に、該当する権利について許諾が必要ということになります。

ただし例外があります。表中の(A)と(B)は特定の条件下では許諾不要となります。詳しくは後述しています。
利用方法 著作権 原盤権
(著作隣接権)
卒業(卒園)式で音楽を流す 演奏権(A) なし
祝賀会、謝恩会、茶話会などで音楽を流す 演奏権(A) なし
卒業(卒園)式や祝賀会などの様子を撮影したDVDなどを配布する 複製権 複製権 (B)
式や祝賀会などで上映するスライドショーにBGMを入れる 演奏権、複製権 複製権 (B)
スライドショーは無音で音楽を同時に流す 演奏権(A) なし

原盤権には、著作権で言うところの”演奏権”に該当する権利が無いため、CDなどを再生する(=演奏する)ことに対しては権利が及びません。

配布DVD用の音源利用許諾が得られない場合も

卒業(卒園)式や祝賀会、茶話会などの様子を撮影して映像作品を制作し、それを生徒や自動、園児の家庭にDVDなどで配布するケースも多いかと思います。

その撮影を専門の業者が行う場合でも、あるいは保護者側の有志が撮影・編集して配布する場合でも、音楽の“複製”利用が行われるため、先述の通り著作権者と原盤権者から許諾を得る必要があります。

著作権者がJASRACやNexToneなどの著作権管理事業者である場合、所定の使用料を支払えば通常は許諾が得られますので、著作権の処理については問題ないと思います。

業者が複製するのではなく、保護者側で撮影・編集した映像を複製して他の保護者に配布する場合は、非商用複製としてJASRACの使用料が廉価になっています。
また、JASRACと利用契約を結んでいる一部の事業者は、使用料が減額されます。

原盤権については、著作権のように一括管理はされていませんので、まずは発売元のレコード会社に問い合わせて利用申請を行うということになります。

しかし、実は一部の大手レコード会社はこのようなDVDへの利用(複製)を認めていません
この場合、問い合わせても複製の許諾が得られる可能性は低く、配布DVDを制作する場合にはBGMとしてそのレコード会社管理の音源は使えない、ということになります。

■ 卒業記念DVDでの利用を認めていない例
(例)Sony Music 「音源使用申請について」

他、ワーナーミュージック・ジャパンも同様です。

■ 申請することで利用が許諾される可能性のある例
(例)ユニバーサルミュージック 「音源/映像 使用 – インターネットでお申込み」

他、エイベックスや日本コロムビア、キングレコード、ビクターエンタテインメントも利用申請が可能となっています。
・avex 「当社商品の音源の利用について(著作隣接権に関して)
・日本コロムビア「音源・映像・ジャケット写真・専属楽曲使用申請
・キングレコード「音源使用に関するお問い合わせ
・ビクターエンタテインメント「音源・映像の使用申請について
 

私的使用には該当しない

スライドショーの制作や卒業(卒園)式の映像撮影・制作を、業者が行うのではなく、個人が作成する場合は「私的使用」だから問題ない、と考えている方もいるようです。

しかし、私的使用とは、著作権法30条1項を基にすると「家庭内またはそれに準ずる範囲で使用するために、使用する者自身が複製する」場合に限られており、卒業(卒園)の式典や茶話会・祝賀会などの様子を撮影して配布する場合や、そこで上映するために制作するスライドショーは、家族以外の数十人が見るものであると思いますので、決して“私的使用”ではありません

無許諾で利用できる場合もある

このように、著作権と著作隣接権の両方の許諾が必要であることが原則なのですが、実は例外もあり、以下のような場合は権利者からの許諾は不要となります。

参加費不要の集会で、DVDなどには収録せず、当日会場で流すだけの場合

→(A)不要

著作権法38条により「非営利・無償・無報酬での演奏」の場合は無許諾で利用できるとされています。
卒園などの行事や謝恩会などは一般的には営利を目的としておらず、またCDの再生に報酬が支払われるケースはほぼ無いと思いますので、式や茶話会などへの参加費が不要なのであれば、この規定により無許諾で演奏する(=CDを流す)ことが可能です。

なお、会場内で音楽を流すことはできますが、その様子を撮影して配布する場合は音楽の複製とみなされ、複製権の侵害となる可能性があります。

自分たちで演奏する場合

→(B)不要

CDなどの音源をそのまま利用することは認められない場合もありますが、そのような場合でもその音源を使わずに新たに演奏・歌唱するのであれば、複製には該当しませんので原盤権者からの許諾は不要です。
なお、この場合でもJASRACなどの著作権者からの許諾は必要ですのでご注意ください。

著作権法30条の2によって、スライドショーと同時に再生した音楽は“写り込んだもの”として無許諾で利用できるのでは?と考えることもできそうですが、一般的には“取り除くことが困難である“とまでは言えないため(例えば複製の基となるデータを作成する際に音声を削除すれば、写り込んでいる音楽を取り除くことができます)、難しいと考えられます。

逆に、本当に取り除くことが困難である状態であれば、この30条の2の規定により著作権者と原盤権者の権利が及ばない、つまり無許諾で利用することができると考えられます。
2020年10月1日施行の改正法により著作権法30条の2”写り込み(付随対象著作物の利用)”規定が緩和され、取り除くことが困難ではなくても無許諾利用できる範囲に含まれたため、流れている音楽が付随対象著作物であると考える余地もありそうです。

違法状態のものを子どもたちに残さないように

祝賀会や茶話会用のスライドショー制作では、十分な予算を確保できないため、JASRACに支払う使用料も捻出できないことも多いのではないでしょうか。
さらに、市販音源をBGMとして利用したDVDを作成して配布したくても、音源の利用許可が出ないことが考えられるため、適法にDVDを制作すること自体が難しいかもしれません。

実際には、著作権侵害であることを主張できるのは権利者だけであり、権利を行使するかしないかは権利者の判断に委ねられます。
よって、仮に無許諾であっても、スライドショーや記念DVDの製作では不当に権利者の権利を害するとまでは言えず、(明確に許諾を表明しなくても)権利者が黙認することも想定されます。

しかし、だからといって(著作権法上許された場合を除いて)著作権者や原盤権者に無断で複製や演奏を行なって良いものではありません
卒園や卒業の記念として作成するものは、保護者にとっても大切なものですが、同様に被写体となっている子どもたちにとってもとても大切なものです。
その中に違法であるおそれのあるものが含まれているのは、決して望ましいことではありません

適切な権利処理を行う、あらかじめ利用が許諾されているもの(フリー音源など)を利用するなど、子どもたちに胸を張って見せることができるものを残していきたいですね。

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