SNSやブログなどで「著作権は大きく分けて著作財産権と著作者人格権の2つがあります」という説明を見たことがある方も多いかと思います。
このような説明は、弁護士などの専門家というよりは、イラストレーターやウェブデザイナーなどクリエイター側の人による発信であったりウェブライターによる記事においてよく見受けられる印象があります。
しかし、この説明は正しいとは言えません。
それにも関わらず、こういった説明が継承され、これが”正しい情報である”と信じている人が増えるというのは、大きな実害は無いとは思いますが、しかし決して好ましい状況であるともいえないと考えられます。
そこで、正しいとはいえない理由を簡単に説明したいと思います。
”著作財産権”とは著作権法には存在しない言葉である
最大の理由として、「著作財産権」という言葉は著作権法の中には一切書かれていません。
著作権について定めた著作権法という法律には存在しない言葉なのです。
また、この”著作財産権”が指すものとして言われているのが、著作者が専有する権利である複製権(法21条)から二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)までの権利なのですが、実はこれらの権利を総称する言葉は著作権法に定義されています。
(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
上記著作権法17条で明示されているとおり、この21条から28条までの権利が「著作権」なのであって、決して「著作財産権」という名前ではないのです。
つまり、「著作財産権」という言葉は定義されていないばかりか、そもそもその言葉が指す権利は「著作権」という名前であることが法律にハッキリと明示されているのです。
なぜ著作財産権と言われるのか
それではなぜ法律にも定義されていない言葉が正しいかのように使われているのでしょうか。
その理由として、”著作権”が指す範囲が曖昧になるおそれがあることが挙げられます。
先の説明のとおり、著作者が享有する権利のうち、著作者人格権を除く権利が「著作権」なのですが、法律の名前が「著作権法」ということから、この法律に定められている権利が「著作権」であるという考え方もできます。
このような2つの意味の解釈について、前者が狭義の意味での”著作権”であり、後者が広義の意味での”著作権”といわれています。
”狭義”の著作権を前提に考えた場合、先の説明のとおり”著作財産権”と称しているものが本来は”著作権”であり、これには著作者人格権は含まれませんので、(狭義の)”著作権”の中に”著作者人格権”が含まれているようなニュアンスがあるため、正しいとは言えません。
また、”広義”の著作権と考えた場合も、著作権法には著作権と著作者人格権だけではなく、著作隣接権、実演家人格権、そして出版権という権利が定められており、決して「大きくわけて2つ」ではないため正しくありません。
これらの意味のうち、狭義の著作権とは、他人に譲渡することも可能(61条)であることも含めて著作者の財産的な利益を保護するためのものであるため、広い意味で財産権の一種であると言えます。
それを踏まえ、狭義と広義の2つの意味の”著作権”を区別する必要が生じた場合のために、財産権の一種である狭義のほうを「著作権(財産権)」のようにカッコを付けて記述することがあります。
これは著作権法を管轄する文化庁が作成する資料やウェブサイトのほか、CRIC(著作権情報センター)や弁護士など、より一層の正確性が求められる専門機関・専門家の解説において用いられています。
このカッコを付けた表記が変形して”著作財産権”という表記が生まれ、いつしかこれが広まったのではないかと推測します。
つまり俗称ですね。
使ってはならない、ということではない
ここまでの説明を読んで、「著作財産権という言葉は使ってはならないものだ」と思うかもしれませんが、そうではなく、あくまで「著作財産権というのが正しいかのような説明が正しくない」ということで、この言葉の存在自体を否定するものではありません。
実際、著作権に関する裁判においても、判決文の中で”著作財産権”という言葉が出てくるものもありますので、決して意味が不明確な言葉であるとは言えないと思います。
著作者が享有する財産権としての権利こそが「著作権」であり、著作権法で定められている権利全般を指すための言葉と区別する必要がある場合は「著作権(財産権)」とするのが適切であって、「著作財産権」とはあくまで俗称である。
些細なことかもしれませんが、しかし言葉の定義とは意外と重要なものなのです。