知らなかったは通用しない!ストックフォト利用時のウェブ制作者の義務

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先日、ストックフォト販売の大手「アマナイメージズ」から、著作権侵害訴訟に関するプレスリリースが出されました。
有料写真、インターネット上の無断使用で著作権侵害が認められ勝訴

事例としては、残念ながら”よくある”と言わざるを得ない、インターネット上で入手した写真を権利者に無断で使用した、ということであり、状況だけ考えれば、原告であるアマナイメージズ側が勝訴するのは当然だと言えます。

ただ、今回の判決は、ウェブ制作事業者に対しての義務を明確にした、重要な裁判でもありました。

【判決文はこちら:東京地方裁判所 平成27年4月15日判決 損害賠償請求事件

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ストックフォトの利便性

本裁判における被告のように、多くのホームページでは、そのサイト内に掲載する写真やイラストについて「ストックフォト」と呼ばれるサービスを利用することは少なくありません。

本来であれば、サイト制作事業者や発注者側で写真撮影したりイラストを作成することが望ましいのですが、スケジュールや予算、また重要度などの関係によって「写真撮影まではできない」という場合はあります。

それでも、文字だけのホームページになるよりは、写真やイラストがあったほうが見栄えが良いですし、またわかりやすく伝わりやすいホームページになりますので、既に撮影されている写真、既に作成されているイラストを入手する方法として、ストックフォトを利用するということが一般的ではあります。

ストックフォトであれば、プロ(またはそれに近い)写真家が撮影した高品質の写真を入手することができますし、それらを無料で提供しているストックフォトサービスも多数存在するため、とても気軽に利用している方も多いと思います。

権利者がいることを忘れてはいけない

このようなストックフォトに限らず、どんな写真やイラストにも必ず著作者が存在します。
一般的にはその著作者が著作権者として著作権を保有していますが、ストックフォトサービスの場合はサービスの事業者に権利譲渡している場合もあると思います。

このように著作権者がいる以上、その写真やイラストの利用については著作権者の許諾を得なければならないというのが大原則です。

ストックフォトの場合は、権利者と利用者との間で個別に契約するのではなく、通常「利用規約」にて写真等の利用について許諾したり、あるいは許諾しない場合の例を挙げており、そのストックフォトサービスに会員登録する段階で利用規約への同意を求められ、それに同意した場合は利用規約に定められている事項を遵守しなければならないということになります。

有償のストックフォトサービスであれば”対価を支払って利用する”(あるいは”購入する”)という意識が働きやすいと思いますが、無償のサービスであったり、ウェブ検索によってピックアップされた写真のようなものに対しては、それが著作物であり利用するには著作権者の許諾が必要、という意識が働きにくいのかもしれません。
今回の被告も、このような意識だったのではないでしょうか。

ウェブ制作のプロなら著作権も気にすべし!

先述のプレスリリース内にも記載されていますが、今回の裁判では被告側の「未必の故意」を認めています。

「未必の故意」とは?
問題があるかもしれない、違法かもしれないという認識があったにも関わらず、その行為に及ぶ心理状態。

今回の著作権侵害行為を行った者は、弁護士事務所に勤務している従業員ですが、その前には自身のウェブ制作関連会社を経営していたような人物であることから、ウェブサイト制作については当然初心者ではなかったことが伺えます。

判決文においても、

Eは,本件掲載行為によって著作権等の侵害を惹起する可能性があることを十分認識しながら,あえて本件各写真を複製し,これを送信可能化し,その際,著作者の氏名を表示しなかったものと推認するのが相当であって,本件各写真の著作権等の侵害につき,単なる過失にとどまらず,少なくとも未必の故意があったと認めるのが相当というべきである

(注:Eとはこの裁判の被告である弁護士事務所の従業員で、問題となったホームページの制作者。以下判決文からの引用について同様。)

単なる過失にはとどまらないとされています。

つまり、ホームページ制作のプロである以上、使用する写真については著作権侵害の可能性について留意すべき義務がある、ということになります。

「知らなかった」が通用しない

今回の裁判では、被告は当該写真について

  • Yahoo!やGoogleの画像検索からではなく、何らかの方法でフリー素材だと誤信して入手
  • 検討段階で多くのサイトから画像を取得していた
  • 入手したのは昔であるため具体的にどのように入手したのかは覚えていない
  • 写真に識別情報が記されていなかったから、自分は悪くない

という主張をしています。

しかし、この主張に対して裁判所は

しかし,仮に,Eが本件写真をフリーサイトから入手したものだとしても,識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは,著作権等を侵害する可能性がある以上当然である(略)

と判断しています。
つまり、権利関係が不明なものはそもそも利用すべきではないということです。
識別情報が無いからといって無断で利用してはいけないですね。

被告従業員Eは、そもそもどのような方法で写真を入手したかを証明していないので、本当にフリー素材だと誤信するような状況であったのかは不明です。それが判決に影響しているかどうかはわかりませんが、もし、「当サイト内の写真はフリー素材です!」と謳っているようなサイトから入手したことを証明できれば、裁判所の判断も変わっていたのかもしれません。

「削除すればいいでしょ?!」も通用しない

今回、アマナイメージズから警告を受けた被告は、すぐに該当写真をホームページから削除しているようです。
また、裁判においてもこの点から損害賠償義務は無いはずだと主張しています。

しかし、裁判所は

(略)警告を受けて削除しただけで,直ちに責任を免れると解すべき理由もない。被告の上記主張は,いずれも独自の見解に基づくものであって,採用することができない。

という判断で、被告の主張を退けています。

「問題があるかもしれないけど、文句言われたら削除すれば問題無い」と軽く考えている方もいるかもしれませんが、その理論は通用しない可能性が高い、ということですね。

これはある意味当然で、「万引きしたけど、警備員に見つかったから返した。これでいいだろ?!」という考えが通用しないのと同じですね。返せばいい、消せばいい、という問題ではないと筆者も考えます。

権利処理をしっかりと!

このように、「知らなかった」も「削除すればいい」も通用しないという判例ができました。

また同時に、加害者側の故意・過失を被害者側が立証しなくても勝訴した、つまり被害者側による立証責任が軽減された判例でもあります。

もっとも、正しく権利処理している多くのホームページ制作事業者には関係が無い判例かもしれません。
ですが、一部の事業者やフリーランスには、権利意識が低い方が存在することも否定できません。

写真だって著作物ですし、権利者も存在します。
ウェブサイト制作のプロであるならば、有料でも無料でも、どのような経路で入手したものであっても、許諾を得たり対価を支払うといった正しい権利処理を必ずしましょうね。

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