「親告罪」(しんこくざい)という言葉を聞いたことはありますか?
著作権関連でも、2018年12月30日から施行された改正法によって一部の著作権侵害の「非親告罪化」、つまりこれまで親告罪であった著作権侵害行為の一部が親告罪ではなくなったことが話題になりました。
また、SNSなどで「著作権侵害は親告罪だから、著作権者が何も言わなければ違法ではなく、問題ない」という意見もよく目にします。
このように、”著作権侵害”と”親告罪”には関連がありますので、この記事で少し触れてみたいと思います。
そもそも親告罪とは?
親告罪とは、「告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪」を意味します。
”犯罪”ですので、著作権以外に主に刑法において対象となる犯罪行為が定められています。
といっても、よくわからない言葉ばかりかと思いますのでもう少し詳しくみていきます。
(※正確性よりも一般的なわかりやすさを重視し、やや簡略化して表現していることをご了承ください。)
まず、「告訴」とは、犯罪の被害者などが、警察などの捜査機関に対して犯罪事実(犯罪に該当する客観的な事実)を申告して、犯人への処罰を求めることをいいます。
この「犯人への処罰を求めること」は実はとても重要ですので、覚えておいてください。
そして「公訴」とは、検察官など捜査機関が、裁判所に対して、犯罪の被疑者(いわゆる”容疑者”)を裁判(刑事裁判)にかけることを求めることです。
公訴を提起することができない、ということであれば、検察は裁判所に対して「この人(被疑者)を裁いてください」と求めることができない、という意味になります。
つまり、親告罪というのは、「犯罪の被害者などが、犯罪の被疑者に対して処罰を与えることを求めない限り、処罰の有無やその内容を決める刑事裁判にかけることができない犯罪」と言えます。
権利者が黙認すれば違法では無くなるのか?
冒頭にも記しましたが、権利者が何も言ってこなければ違法ではない、と考えている方もいるようです。
その根拠が、著作権侵害は親告罪であるから、というものです。
しかし、これは正しくありません。
親告罪というのは、犯罪の被害者、つまり著作権者が権利侵害を行った被疑者に対して「著作権侵害に対する罰則を科すという処罰を求める」場合にはじめて捜査が行われて、必要があれば刑事裁判にかけられるというものであって、著作権者が告訴しないから違法ではないというものではありません。
これは、著作権を侵害しており違法性があるが、著作権者が懲役刑や罰金刑という処罰を求めていないだけ、という場合もあり得るということです。(※下図中央の赤丸の位置)
そして実際にこのような状態は非常に多いと感じています。
何の行動も起こさないことと、黙認(=暗黙のうちに認める)は同じ意味ではありません。
後述のように著作権者の中には事後的に追認している方もいるとは思いますが、しかしそうではなく侵害行為を認めてはいないが刑事裁判を行って刑罰(罰金刑、懲役刑)を与えることまでは求めていない、というだけの場合もあります。
また、親告罪というのが関係するのは、あくまで刑事罰を科す過程においてのみです。
上図下段の民事的救済(損害賠償請求、差止請求など)には関係ありません。
つまり、違法状態であるときに著作権者から損害賠償などの請求を受けていないからといって、それは合法である、黙認されていると断定できるわけではありません。
なぜ著作権侵害の多くは親告罪なのか?
TPP11発効に伴う著作権法改正においても多くの著作権侵害が親告罪のままとなったのか。
そしてそもそもなぜ親告罪にしているのか。
その理由は、著作権侵害という行為は、著作権者の意思によって事後的に認められたり許可されたりする可能性があるためです。
これは、明確に許諾を与える場合はもちろん、黙示で許諾を与える黙認という場合もあります。
また、著作権法の起草者によれば、その侵害行為に対して刑事罰を与えるかどうかは著作権者の判断に委ねることが適当であり、権利者が不問にすることを希望しているときまで国家が乗り出す必要がないと考えられるためとされています。
許諾を受けるのが原則
このように、著作権者が何も言ってこないからといって、その行為が違法ではないわけではなく、著作権者が黙認しているともいえないことは十分留意する必要があります。
著作権法で著作者(著作権者)だけが利用できるとされている利用行為を第三者が行う場合は、権利制限規定に該当する場合を除き、著作権者から許諾を得なければならないというのは原則ですので、著作権者の権利を侵害しないよう、適切に利用したいですね。