作った本人が著作者ではない?!職務著作の基本

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著作権とは、著作物を創作する者、つまり著作者に自動的に発生する権利ですので、原則的には著作物を実際に創作した本人が著作者となります。
つまり、小説を書いた人や、絵を描いた人、音楽を作った人などが著作者であり、著作権を有するということですね。

これが原則なのですが、著作権法(以下「法」)では、この著作者となる人について、いくつかの例外が規定されています。

その中の1つが、法15条で規定される「職務著作」です。法人著作と呼ばれることもあります。

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職務著作とは?

後述する職務著作の要件に適合する場合、著作物を実際に創作した人が著作者であるという原則を覆し、創作者本人ではなく、その創作者の雇用主などである「法人等」が著作者になります。

なお、「法人等」とは、法15条1項で「法人その他使用者」を指すとされていますので、株式会社や合同会社といったいわゆる”会社”だけでなく、一般社団法人、学校法人、労働組合などの中間法人も含まれます。
さらに法2条6項により、「法人」とは「法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理者の定めがあるもの」まで含まれるほか、「その他使用者」とは個人事業主なども含まれますので、かなり幅広い団体が対象となります。

ここで注意しておきたいのが、法人等が著作者になる、ということは、実際に創作した本人には著作権法上では何の権利も発生しない点です。
”著作権は著作物を作った人のもの”という原則だけで判断してしまうと、会社との間でトラブルになってしまうおそれもありますので、十分ご注意ください。

なお、職務著作については、「創作者本人から法人に著作権が移った」と誤解されることもありますが、著作権が移転するのではなく、法人等が原始的に著作者の地位を取得します。
つまり、最初から法人等が著作者であるという状態ですので、譲渡の対象にならない(法59条)著作者人格権もその法人等が有することになります。

また、職務著作は、著作物の保護期間にも影響があります。
人間(自然人)の場合は、創作のときから著作者の死後70年まで存続しますが(法51条)、職務著作に該当する場合は、著作物の公表後70年となります(法53条1項)。
ただし、法人が解散し、著作権が国庫に帰属すべきこととなる場合は、その時点で消滅します(法62条1項2号)。

法人などが著作者になる場合とは?

それでは、どのような場合に職務著作の規定が適用されるのでしょうか。
その要件については、法15条1項において次の5つが定められています。

(1)法人等の発意に基づくものであること
(2)その法人等の業務に従事する者が作成するものであること
(3)法人等の業務に従事する者が職務上作成するものであること
(4)法人等の名義で公表するものであること
(5)契約や勤務規則などに別段の定めがないこと

上記5つのすべての要件を満たした場合、創作された著作物の著作者となるのが法人等となります。

なお、プログラムの著作物については、(4)の公表要件が不要となっています(法15条2項)。

それぞれの要件については、学説も諸説あるなど難しい論点もあるため詳細な言及は避け、できるだけ簡易な説明にするよう留意していますので、その点ご了承ください。
なお、(2)と(4)については後述します。

まず(1)の法人等の発意ですが、いわゆる業務上の指示や命令全般であると考えることができます。
また、具体的な指示や承諾がなくても、職務の遂行上、その著作物の作成が予定されるものであれば法人等の発意に基づくと解されます(「北見工業大学事件」知財高判H22.8.4など)ので、例えばデザイン会社でデザイナーとして働く人が、会社や上司からの指示によらずに作成したデザインであっても「法人等の発意に基づく」と考えられます。

また(3)の要件についても(1)に似ており、会社からの指示で作成するという場合が該当するのはもちろん、所属する部署から考えて著作物の作成が当然に意図・期待されていると評価できる場合も「職務上作成する」と考えられます

逆に、当然に意図・期待されていると評価できない場合は該当しません。特許事務所に在籍する弁理士が勤務時間外に執筆した書籍について、その執筆・出版が特許事務所の本来的な業務ではないため「職務上作成する」に該当しないと判断された事例もあります(「知的財産権入門事件」東京地判H16.11.12)し、例えば会社の経理部に勤務する者が休憩時間に描いたイラストも「職務上作成する」には該当しないと考えられます。

(5)の要件については、例えば就業規則で「業務上作成した著作物の著作者は、従業者自身とする」ような規定が存在する場合は、職務著作という例外が排除され、原則どおり著作物を創作した者が著作者となります。
なお、このような規則・契約は著作物作成の時点で存在しなければならず、著作物を創作した後に契約などで著作者を定めることはできないと考えられます。

法人等の業務に従事する者とは?

(2)の要件である「法人等の業務に従事する者」とは、どのような者を指すのでしょうか。

そのまま素直に考えて、法人等と雇用関係のある者、いわゆる会社の社員やアルバイトというのは当然に該当します。
また、雇用関係のない取締役などの役員や派遣労働者であっても、総合的な考慮によって、実質的に法人等の指揮監督下において労務を提供しており、法人等がその者に支払う金銭が労務提供の対価であると評価できる場合は「法人等の業務に従事する者」に当たるとされています(「RGBアドベンチャー事件」最判H15.4.11)。

同様に、法人と雇用関係のないフリーライターが執筆したインタビュー記事について、法人から依頼されてその指揮命令に従って執筆し、しかも依頼主である法人に記事の著作権を帰属させるという認識だったことから職務著作を認めた裁判例もあります(「SMAP大研究事件」東京地判H10.10.29)。

このように、雇用関係がなくても、実質的に雇用関係がある場合と類似する指揮監督下における業務であり、法人等に著作権を原始的に帰属させることを前提とするような関係があるのであれば、「法人等の業務に従事する者」に該当すると考えられます。

これは、法15条によって法人が著作者となることが規定されているのは「法人が主体となって著作物を作成し出版することによって、法人が当該著作物に関する責任を負い、あるいは法人としての対外的信頼を得ているという社会的実態を重視したものと解されるのであるから」(「四進レクチャー事件」東京地判H8.9.27)という点が理由として挙げられます。

そのため、例えばフリーランスが法人から著作物の作成の依頼を受けたときに、「会社員ではないから」と職務著作のことを考えないでいた場合に、トラブルに発展してしまうリスクがあります。

逆に、雇用関係がある場合とは類似しない、独立した請負業務であれば、法人等の業務に従事する者とはいえませんので、著作物の創作者が著作者となります。

劇場映画や動画作品などの「映画の著作物」の場合、職務著作に該当しない場合は「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が著作者となるため、独立した請負業務を行った者であっても著作者にはならない場合があります。

公表するものとは?

最後に(4)の公表要件ですが、こちらはプログラムの著作物については必要ありません。
公表しないプログラムであっても、他の4つの要件に当てはまれば、職務著作となります。

この要件のポイントは、「公表したもの」ではなく「公表するもの」と定められているところです。
つまり、未公表であっても、法人等の名義で公表することが予定されているもの、あるいは公表が予定されていなかった場合でも、公表するのであれば法人等の名義で行われると考えられるものであれば、この要件に該当します(「新潟鉄工事件」東京高判S60.12.4、「経理事務プログラム事件」名古屋地判H7.3.10)。

これにより、例えばフリーのカメラマンが雑誌社からの指示に基づいて写真を100枚撮影した場合、最終的に採用され公表されたのは1枚だけであっても、残りの99枚の写真も雑誌社名での公表が予定されているものであるため、この公表要件に該当します。

仕事上重要な知識

職務著作は、”著作物の創作者が著作者”という著作権法の原則とは異なる規定です。

仕事に関係ありそうな場面で著作物を創作する場合というのは決して少なくありません。
法人側はもちろん、実際に著作物を創作する側である従業員側も、どのような場合に職務著作に該当し、どのような場合には該当しないのかについて、理解しておくことは仕事を進める上でとても重要であると言えます。

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