契約時に留意すべき著作権の「譲渡」と「利用許諾」

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出典: Bacho Foto (from Adobe Stock)

著作権は法(著作権法)により「著作者が専有する」と定められており、原則的には著作者、つまり創作物の作者だけが複製や演奏、公衆送信といった法に定められた方法で利用(=権利を行使)することができます。

著作者が専有する権利は法で規定されているものだけですので、例えば「一人で本を読む」「音楽を聴く」といった利用については著作者が専有しているわけではありませんので、自由に利用することができます。

しかし、それではせっかく苦労して創作した作品であっても自分自身しか利用できないとなると、その作品の価値が十分に発揮できません。

そこで、法では、著作権を他人に譲渡(法61条1項)したり、著作物の利用を許諾(法63条1項)したりできることが定められています。

なお、著作物の利用を許諾された者は、著作権者からの許諾を得ないとその”利用できる権利”を譲渡することができません(法63条3項)。

ビジネスシーンでは権利譲渡または利用許諾が多い

実際、ビジネスの場においては、創作された著作物を著作者だけが利用するという場面よりは、他人に権利を譲渡したり、あるいは利用を許諾するというケースのほうが多いのではないでしょうか。

この記事では、例として「法人であるA社が、自社ウェブサイトで利用するイラストの制作をフリーランスのB氏に依頼した」場合を考えてみたいと思います。
(※23:00追記:記事公開時には「自社広告で利用するイラスト」としていましたが、それよりは譲渡と利用許諾の両方が有りうる「自社ウェブサイトで利用するイラスト」のほうが適切であるとの考えから変更しました。なお、この記事はイラストの著作権に限った話ではなく、多くのクリエイティブワークに共通した基本的な考えです。)

まずこの場合、イラストの著作権は著作者であるB氏に帰属します。
これは、たとえA社からの依頼で制作したものであっても、著作権は自動的に依頼者であるA社に移るものではないためです。

つまり、先述のとおりイラストを利用できるのはB氏のみという状況ですので、A社が利用するためにはイラストを利用できる権利(著作権または利用権)を得る必要があります。

そこで、一般的にはイラスト制作依頼時に”イラストを利用できる権利”について契約書で定めるのですが、そこで問題となるのが「譲渡すべき」なのか「利用許諾すべき」なのかという点です。

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”譲渡”の場合

このような場合、「イラストの著作権のすべてがA社に移転する」旨の契約が要求される場合があります。
移転のタイミングにはいろいろありますが、「委託料がすべて支払われた時」または「イラストの完成品が納品された時」のいずれかという場合が多いのではないでしょうか。

著作権の譲渡と同時に、譲渡できない権利であるB氏の著作者人格権についてB氏は行使してはならないという”著作者人格権の不行使特約”も定められることが多いです。
なお、契約書に「すべての著作権を譲渡する」と書かれていても、法27条と28条の権利も譲渡される旨が明示されていない場合は、それらの権利は譲渡されずB氏に残ったままとなります(法61条2項)。

このような著作権譲渡の場合、A社としては自社が著作権者となり(著作者人格権を除く)すべての著作権を行使することができる、つまりイラストを自由に利用することができることになります。
”依頼によって作ってもらったのだから自分(自社)のものであり、自由に利用したい”という一般的な感覚にも合っていると思います。

逆に、B氏としては、著作者人格権を有する著作者ではありますが、一切の著作権がない(行使できない)という状態になりますので、A社の許諾なく自身のポートフォリオ(作品集)に掲載したりSNSに投稿したりすることは、著作権者であるA社の著作権の侵害となってしまうおそれがあります。

自分の作品ではあるものの、自分では利用することができず、また著作者人格権の不行使特約がある以上、自身の想いや考えに反するような改変が為された場合であっても抗議することができないという、クリエイター側にとっては大きく不利な状況に置かれてしまうと考えることもできます。

クラウドソーシングサービスを利用した受発注では、著作権譲渡が前提となっているものもありますので、利用するクラウドソーシングサービスの利用規約をご確認ください。

”利用許諾”という選択肢も

しかし、A社としてはイラストを自由に利用できれば良いわけで、”著作権譲渡”がその唯一の手段ということではありません。

著作権を著作者であるB氏に残したまま、”A社がイラストを自由に利用できる権利”というものをB氏がA社に対して許諾するという方法でも、A社の目的が達成できる場合も少なくないのではないでしょうか。

このような利用許諾であれば、その許諾の範囲設定次第でA社はイラストを自由に利用できますし、またB氏はすべての著作権を有していることになりますので、ポートフォリオへの掲載もSNSへの投稿も自由に行うことができます。

細かいところですが、紙の契約書で契約する場合、利用許諾のほうが著作権譲渡の場合よりも印紙税が安くなる場合があります。
(参考) 印紙税って実はめちゃくちゃ難しい、という話

このような、いわゆる”Win-Win”の状況にすることができる場合も多くありますので、”著作権は譲渡してもらわないと困る”という考えに縛られることなく、イラストの利用目的や方法に応じて柔軟に考えることが必要なのではと感じます。

特に近年では、クリエイター側の権利意識向上もあり、利用許諾への変更を交渉する場合も増えているように感じます。

利用許諾であっても注意が必要な場合も

このように、著作権譲渡ではなく利用許諾とすることで、制作者側であるクリエイターB氏にとってもメリットは大きいですが、ただこれで安心かと言うとそうでもない場合もあります。

その一例として、「著作権を行使できる唯一の者であるため、第三者の権利侵害に対して対応しなければならない場合がある」ということが挙げられます。

これは、例えばB氏が作成しA社が利用していたイラストを、他のデザイナーC氏が模倣して自身の作品として利用しているため、A社としてはそのC氏による利用を差し止めたい場合に、著作権に基づく利用差し止めを請求できるのはイラストの利用者であるA社ではなく著作権者であるイラストレーターB氏ですので、B氏が矢面に立ってC氏に対する注意勧告や利用差し止め裁判を提起しなければなりません。
これは、フリーランスであるB氏にとっては、大きな負担となってしまうのではないでしょうか。

C氏の利用によりA社が大きな損害を被るおそれがあるような場合は、一時的にでもA社がB氏から著作権を譲り受けて差し止めや損害賠償を請求することも考えられますが、そうではない場合は、制作委託時の契約で「第三者の権利侵害に対してはB氏が対応しなければならない」旨を定め、その契約を基に対応を要求される可能性もあります。

このような、「A社はただの利用者にすぎず、イラストに関するすべての権利と責任を有するのはB氏である」ような状況は、場合によってはデメリットにもなりかねません。

もし委託側からこのような契約書が提示された場合は、十分に検討する必要があると思います。その上で、例えば第三者による権利侵害に対しては委託者と受託者で協力して対処するような内容に変更することが望ましいと考えられます。

委託者側も、受託者(制作者)側も、著作物の利用方法や目的などを十分に勘案した上で、著作権を譲渡するのか、利用を許諾するのかを検討するよう心がけたいですね。

※2021/12/28 23:00 一部加筆修正(著作権譲渡が一般的であるとするのは語弊があるため修正、クラウドソーシングに付いての記述を追加、利用許諾時の権利侵害発生時に関する契約書修正についての記述を追加、その他)

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