イラスト作成やライティングの権利はどうなるの?作業請負の著作権

シェアする

最近、イラストの作成や記事ライティングなど、創作的作業を手軽に請け負うサービスが人気です。
つい先日も、次のような記事がありました。

あなたの代わりに、あなたの名前で小説書きます ネット新ビジネスが話題 (2017年12月22日 J-CASTニュース)

ただ、人気の一方で、この記事からもいくつかの問題点が見えてきます。
イラストも小説なども基本的には著作物であるため、著作権法との関係からその問題点を考えてみたいと思います。

スポンサーリンク

譲渡しているのは”人格的著作権”・・・?

まず先述の記事で気になるのは、次の点です。

「著作権を譲渡しながら、紙媒体での配布禁止はおかしいとのご指摘も受けました」

考え方として、譲渡しているのは「人格的著作権」で、「財産的著作権」は譲渡しない、という方針だからだという。

ここで言う「人格的著作権」が、著作権法で規定される「著作者人格権」という意味であれば、著作者人格権は譲渡できない(著作権法59条)ため、これは無効であると考えられます。

この59条は契約によって上書きできないものとされているため、著作者人格権を譲渡するという契約も無効です。

いくら著作者本人がこのような”方針”であると表明していても、納品物をそのように扱うことはできません。
依頼する側は、この点をご注意ください。

譲渡ではなく不行使の表明であれば有効だと考えられます。

どの範囲が譲渡されているのか・・・?

もう1点気になるのは、「著作権を譲渡」という点です。

著作者人格権は先述の通り譲渡はできませんが、財産的著作権は譲渡できます(法61条1項)。
譲渡する権利も、すべての著作権とすることもできますし、一部の権利(支分権)のみとすることもできます。

ただし、単に”すべての著作権”とした場合は、法27条(翻案権等)と法28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)は譲渡対象に含まれません(法61条2項)。

その上で、特定の権利(支分権)を明示することなく、単に”著作権を譲渡する”とした場合、具体的にどの権利が譲渡対象となっているのかが不明確となります。

そのため、仮に譲渡対象が「27条と28条の権利を除くすべての著作権」とみなされた場合、複製権と譲渡権も譲渡されていることになるため、これらの権利が関係する利用行為である「紙媒体での配布」を禁止することはできないことになります。

ただ、すべての権利を譲渡するのではなく、紙媒体での配布禁止という意図を「複製権の制限付き譲渡」と解釈する余地も僅かながら存在すると考えられます。

よって、契約内容としては曖昧なものであると言え、それがトラブルに発展するリスクも軽視できません。

原則は購入者自身が自由に利用可能

こういったサービスを利用する場合に重要となるのが、利用しているサービスのルールを定めた利用規約です。

先述の記事でも取り上げられているサービス「ココナラ」のケースを考えてみます。

以下、引用箇所は「ココナラ」の利用規約からとなり、引用内容は記事執筆時点のものとなります。

著作権など知的財産権に関する規定は利用規約の14条と21条に規定されておりますが、購入者側に適用される14条の第5項において

5. サービス利用会員は、出品者が商品の説明や商品の提供過程において明示的に指定した場合を除き、自ら使用するためのみ、自由に出品者著作物等を利用(複製、複写、改変、第三者への再許諾その他のあらゆる利用を含みます。)できるものとします。但し、自らが提供を受けた商品に関する出品者著作物等を、転売目的のために購入し、譲渡する行為は禁止します。

このように定められており、サービス利用会員(=ココナラに会員登録した者)が、自らの使用のために、自由に利用できることとされています。

21条4項は、この14条5項と内容は同じで、出品者側に対する義務(利用許諾する)、という内容になっています。

この”自由に利用”も、複製や改変だけでなく第三者への再許諾も含む、とても広い範囲での利用行為を含むものとなっています。

ただし、「出品者が商品の説明や商品の提供過程において明示的に指定した場合を除き」とされているため、出品の説明の際に利用制限(紙媒体での配布禁止など)を設けた場合は、その制限は有効となるものと考えられます。

なお、この規約では「自ら使用するためのみ」自由に利用できるとされていますので、例えばウェブデザイナー(購入者A)がウェブデザイン内のロゴ作成をココナラで出品者(B)に依頼し、作成されたロゴの納品を受けた会社(C)がそのロゴを名刺に印刷した場合、ロゴを利用しているのは会社Cであり購入者Aではないため、利用規約に違反していると考えることができます。

著作物だという認識を

イラストやロゴ、小説、ブログ記事、音楽など、出品者が提供するものは著作物であるため、著作権については常に留意する必要があります。

利用規約において、購入者自身の利用に限り自由に利用できるものとされているため、一般的にはその規定で問題無いかと思いますが、それ以外の条件などをつけたい場合は、その旨明言することが大切です。
例えば、先述の例のように自己の利用ではなく他人(自社の顧客など)の利用を許諾して欲しい場合は、出品者から明示的に許諾を得るようにしてください。

また、利用規約では著作者人格権については何も規定が無いため、出品情報において明言が無ければ、氏名表示権に基づき出品者の名前を表示することを要求することが可能ですし、同一性保持権に基づき、気に入らない改変を差し止めることが可能であると解釈することができます。
これでは利用者(購入者)側にとっては好ましくない状況となることも十分考えられるため、これらの著作者人格権を行使しない旨を出品者に保証してもらうことも検討されても良いかと思います。

出品者も、購入者も、取引の対象となっているものが著作物であり著作権法の適用を受けていることを理解し、必要に応じて適切な許諾を得る(与える)よう留意し、便利に利用していきたいですね。

以下、簡単にまとめます。

  • 出品者が作成したイラストや文章は原則的に著作物であり、著作権法で保護される
  • 特筆の無い限り、著作権は購入者に譲渡されず、購入者のみに利用が許可されている状態であることが利用規約で定められている
  • 出品者と購入者との合意で異なる利用条件(制限だけでなく緩和も)を付けることも可能であるため、利用状況に応じて適切な合意を得ることも重要
スポンサーリンク