権利者不明の作品でも展示できる?!知っておきたい美術の著作物の利用

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先日、SNSで「正体不明のアーティストが描いた作品で展示会を開催するのは著作権侵害だ」といった意見を目にしました。
確かに、正体不明なのでアーティスト本人から許諾を得ていないはずであり、また開催された展示会に対して何らかの主張を行ってくる可能性も低いことを利用し、勝手に展示会を開催するのは問題があるのではないか、と考えることはできそうです。

そこで、アーティストからの許諾を得ていないという前提で、このような無断(だと思われる)での展示会開催が著作権侵害となるのかを考えてみたいと思います。

もちろん、アーティストなどの著作権者から許諾を得る方がベターであることは言うまでもありません。
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所有権と著作権の違い

まず、その正体不明のアーティストを仮に「Bさん」としますが、Bさんがキャンバスに自身の作品(※他人の作品の模写や贋作ではないものとします)を描いたとします。
そのBさんの作品が描かれたキャンバスを、Bさんから直接譲り受けたか、あるいは売買によるのかなど、何らかの理由で入手して現在所有している「Cさん」がいます。

著作権の大前提として、キャンバスに描かれた絵画の著作者はBさんであり、他者に権利譲渡していないのであれば、著作権者もBさんです。
つまり、現在キャンパスを所有しているCさんは、そのキャンバスという物体の所有権は有していますが、キャンバスに描かれた絵画そのものについては権利(著作権)を有していないことになりますので、その絵画を複製して販売したり、映像作品を作るために貸し出したりするためには、著作権者であるBさんの許諾が必要です。

このように、物体を所有したり処分したりできる権利である「所有権」と、絵画そのものを利用するための「著作権」はまったく別の権利です。

所有者は著作物である絵画そのものを無断利用する権利は基本的にありませんが、別の言い方をすると、他人がその絵画を利用することに対して差し止めなどを行う権利もない、ということになります。このように所有者が本来は有しないはずであるのに行使してくる著作権に類似した権利を”疑似著作権”と呼ぶこともあります。

展示権の制限

このような「所有権」と「著作権」との関係において、著作権法(以下「法」といいます。)にはこの2つの権利の調整が規定されています。
それが法45条の「美術の著作物等の原作品の所有者による展示」です。

(美術の著作物等の原作品の所有者による展示)
第四十五条 美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる
2 前項の規定は、美術の著作物の原作品を街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合には、適用しない。

これは、簡単に言うと、美術の著作物や、写真の著作物の原作品を所有している人、またはその所有者から同意を得た人は、著作者や著作権者から同意を得なくても、この美術の著作物や写真の著作物の原作品を公に展示することができる、という規定です。

そもそも、美術や写真の著作物に限られませんが、著作物を公に展示することができるのは著作者だけです。(展示権。法25条)

しかし、美術作品の売買と、その購入者による展示は昔から行われてきたものであり、また展示するためには著作者の許諾が必要となってしまうと美術作品を購入するのに躊躇してしまい、美術作品の商品としての流通が阻害されてしまうことにもなりかねません。(小倉秀夫 金井重彦 編著『著作権法コンメンタール<改訂版>  II』(第一法規、2020年)255頁)
そのため、著作者の許諾なしで展示できるようにしたのがこの45条の規定です。

よって、現在キャンバスを所有しているCさんは、Bさんから許諾を得る事無くそのキャンバスを展示することが可能ですので、このキャンバスが展示会に展示されていたとしても、それは違法ではないということになります。

上記の他、美術の著作物の原作品や、未公表の写真の著作物の原作品を譲渡した場合は、譲り受けた者が展示によって公衆に提示することに同意したものと推定され、この推定を覆す事実が提示されない限り、公表権の侵害にはなりません。(法18条2項2号)

屋外の建物などに描かれた作品は

しかしこの展示会に関する問題は、これだけではありません。
どうやら、その正体不明アーティストBさんは、無断で屋外にある建造物の外壁などにも描いており、展示会にはその絵画も展示されているようです。

Bさんの作品が描かれた建物などの所有者は、先述の法45条により公に展示する権利はありそうですが、ただ問題となるのが「原作品により公に展示する」ことが認められているのであり、法45条は絵画を複製して展示することまでは認めていないということです。
建物に描かれているということは、その建物が「原作品」であると考えられますので、展示会で展示するためにはその建物を移動させて展示しなければならないことになりますが、もちろん現実的にはかなり困難です。

ということは、展示会で展示されている作品は、複製したものを展示しているということになり、それは著作者であるBさんの複製権(法21条)を侵害しているのでは?という考えに至ります。

なお、複製した物を展示した場合は、展示権の侵害にはなりません。展示権が及ぶのは原作品により公に展示する場合に限られるためです。

しかし、この場合でも、法46条「公開の美術の著作物等の利用」の規定により問題無いと考えられる可能性があります。

(公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

無断であるとはいえ、Bさんが建物に描いた作品は「美術の著作物」であり、また建物の外壁である以上屋外に恒常的(※ある程度の長期にわたり不特定多数の者が見ることができる状態に置くこと)に存在しているものです。
このような場所に描いたということは、多くの人が目にすることを作者は当然に認識していたであろうし、またこのような作品についても著作権が及ぶとなってしまうと、多くの人の権利や行動を過度に制限してしまうおそれがあります。

そこで、この法46条の規定により、屋外に恒常的に設置されている美術の著作物等については、展示に限らず複製や公衆送信、翻案(改変)などどのような方法でも利用できるようになっています。(※ただし改変する場合は同一性保持権の侵害となる可能性はあります(法50条))
よって、屋外の建物に描かれた作品を複製して展示することは問題無いと考えられます。

この「屋外」とは、45条2項で規定するものに限られ、主に街路や公園などの一般公衆に開放されている屋外の他、建造物の外壁など誰でも見やすい場所を指しています。ただ、屋外にあって誰でも見られるといっても、例えば国立西洋美術館の前庭にある彫刻までもが対象になるとは考えられていません(加戸守行『著作権法逐条講義 〈六訂新版〉』(CRIC、2013年)345頁)。

ただ、原則的には”いずれの方法によるかを問わず”利用することができるのですが、いくつかの例外が定められています。
・彫刻作品を複製した彫刻を作成すること(完全コピーではなく、例えば大きさが異なるような場合も該当します)
・屋外に恒常的に設置するために複製すること
・販売する目的で複製したり、複製したものを販売すること
これらに該当する場合は利用できません。
特に最後の「販売目的での複製」は要注意です。

まとめ

以上のように、正体不明アーティストが描いた作品で開催した展示会について、それが直ちに著作権侵害であるとは言えず、合法なものである可能性は十分高いと考えられます。

ただ、実際には権利者から展示などの許諾は得ているとは思います…。

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