一眼ミラーレスなどのデジタルカメラを持つ人ばかりでなく、スマートフォンに搭載されているカメラ機能も年々向上していることもあり、街中で風景やポートレートなどを気軽に撮影をする機会も増えていると思います。
このような気軽にスナップ写真を撮影する際に知っておきたい著作権やその他の権利について考えてみます。
スナップ写真とは
まず前提として、この記事でいう「スナップ写真」とは何なのかについて定義しておきたいと思います。
広辞苑第七版を参照すると、「スナップ写真」とは「スナップショット」(Snapshot)の略で、「動く被写体を手早く撮影すること。特に、相手に気づかれないように自然な状態を撮ること。また、その写真。スナップ写真。早撮り写真。」であるとされています。
つまり、スタジオなどで入念に機材の準備をした上で撮影に挑むものではなく、下準備をしないで日常や自然な雰囲気の中で素早く撮影した写真を指すものだといえます。
スナップ写真自体には撮影場所の定義はなく、屋内での撮影でも屋外の撮影でも該当しますが、この記事では特に「屋外での撮影」を中心に考えてみます。
なお、スナップ写真が著作物かどうか?については、過去の裁判例において以下のように判断されており、スナップ写真自体は基本的に著作物であると考えられています。
写真を撮影する場合には,家族の写真であっても,被写体の構図やシャッターチャンスの捉え方において撮影者の創作性を認めることができ,著作物性を有するものというべきである。
(「東京アウトサイダーズ事件」原審 東京地判H18.12.21 判決文より引用)
写り込み
屋外でスナップ撮影する上でまず遭遇するのが、他人の著作物が画角に入ってしまうことではないでしょうか。
街中であれば、店舗やビル、商業施設、路線バスなどに多くの写真やイラスト、キャラクター画像といった”他人の著作物”が描かれており、多くの場合、写真に写り込んでしまいます。
写真に写り込むということは、その著作物を撮影という方法により複製していることになるのですが、一般的にそれらすべての著作物の著作権者から複製の許諾を得ているということはありませんので、原則としては複製権(法21条)の侵害に該当します。
しかしこれはあくまで原則であり、この原則通りでは自由に写真撮影する権利が大きく制限されてしまいますので、法ではいくつかの例外規定(権利制限規定)が設けられています。
その中の一つに、「付随対象著作物の利用」(法30条の2)があります。
付随対象著作物というと難しく感じますが、簡単に言えば「スナップ写真に”写り込んだ”著作物」ということです。
この法30条の2の規定により、写り込んだ著作物は基本的には著作権者の許諾を得ること無く利用できるようになっています。
ただし、以下の3点から判断して「正当な範囲」であるとは認められない場合は適用できませんのでご注意ください。
・写り込んだ著作物を利用することで利益を得る目的があるかどうか
・写り込んだ著作物を分離することの難しさの程度
・撮影したスナップ写真において写り込んだ著作物が果たす役割
私的使用のための複製
スナップ写真に適用できる権利制限規定としては、私的使用のための複製(法30条)も挙げられます。
これは個人的に使用するためであれば複製が可能というもので、日常の多くのシーンでその恩恵を受けていると思います。
写真撮影も複製行為であるため、個人や家族間で楽しむだけであれば、街中の著作物を(他の法令に違反しない範囲で)自由に撮影できます。
ただし、許容されるのは個人的使用の複製までであるため、著作権者の許諾なく撮影した写真をネットにアップしたりフォトコンテストに応募したりしたような場合は目的外利用とみなされ(法48条1項)、他の権利制限規定を適用できない場合は複製権侵害となるおそれがあります。
詳しくはこちらの記事もご参照ください。
屋外に恒常的に設置されている著作物
先述の「写り込み」は、メインの被写体としてではなく写り込んでしまう著作物に対しての規定ですが、美術の著作物であってその原作品が屋外に恒常的に設置されているもの、または建築の著作物については、原則としてどんな方法でも利用することができるとされています(法46条)。
つまり、メインの被写体として撮影することが可能であり、またネットにアップしたり写真展に展示することもできるということです。
対象となるものの一つは「美術の著作物でその原作品が屋外の場所に恒常的に設置されているもの」で、例えば彫刻作品やモニュメント、建物の外壁に描かれた絵画などが該当します。
これらの美術の著作物については、後述する例外を除き、自由に撮影し公開することができます。
また、建築の著作物も対象ですので、著名な建造物なども撮影することは可能です。
ただ実際には、建築物について著作物性が認められるのは独立して美的鑑賞の対象となるような美術性を備えた場合に限られるため(大阪高判H16.9.29)、一般的なビルや家屋などは著作物ではないと考えられることから、そもそも著作権を気にする必要がある場面は多くないといえます。
”自由に利用できる”という原則に対する例外として、美術の著作物について、専ら販売を目的として複製する場合、またはその複製物を販売する場合は利用できません。
主な例としては、街中にある彫刻を撮影し、その写真を利用して作成したカレンダーやポストカード、ポスターを販売するような場合です。
なお、「販売」とは公衆に対して有償で譲渡することを指し、複製物の占有移転を含まず公衆送信だと考えられる「ダウンロード販売」は含まれません。
法の規定としては上記の通りなのですが、特に商用利用する場合はトラブルにもなりやすいため、著名な建造物や著名な美術作品を利用する場合は権利者から許諾を得ておくほうが得策ともいえます。
肖像権
当ブログは著作権に関する話題を扱うところであるため、本来は触れるべきところではないのですが、人物が含まれる街角スナップの撮影において「肖像権」は最も気になる点であるともいえますので、少しだけ触れることにします。
まず肖像権とは、著作権とは全く異なる別の権利ですので、混同して考えないように注意する必要があります。
そして、著作権のように法律によって定義されているものではなく、人格権に基づくものとして裁判例で認められてきている権利であるという点にも要注意です。
一般的に、肖像権とは「人がみだりに他人から写真を撮られたり、撮られた写真をみだりに公開・利用されない権利」であるとされています。
これをもって、「無許諾での人物撮影はすべて肖像権侵害」であると考えている方も見受けられますが、それは正しくありません。
実際には、肖像権の侵害かどうかの判断は「被撮影者の活動内容、撮影の場所や目的、態様、必要性等を総合考慮して、人格的利益の侵害が受忍限度を超えるかどうか判断して決すべき」とされています(最一小判H17.11.10)。
つまり、人物を撮影すると常に肖像権侵害になるのではなく、撮影された人にとっての人格的利益の侵害が許容できないほどになった場合に肖像権が侵害された、と判断されるということです。
例えば、同じ人物を被写体とするスナップ写真であっても、その人が普通に街中を歩いているときの写真と、その人がすべって転んだ瞬間の歪んだ表情の写真とでは、後者の方が肖像権の侵害だと判断される可能性が高まる、ということになります。
先述の判断基準を念頭に置いて、どの程度の侵害度合いだといえるのかについて都度考えることが重要ではないでしょうか。
もちろん、許諾を得られるのであれば得ておくほうが安心といえます。
盗撮は絶対NG
最後に、言うまでも無いことですが、スナップ写真であっても、また著作権・肖像権で問題ないとしても、禁止されている「盗撮」に該当する行為はやってはなりません。
なお、ここでいう盗撮とは、日本語の意味(=相手に気付かれずに撮影すること全般)ではなく、各都道府県の迷惑防止条例などで禁止されるものを指しています。
参考として、東京都の迷惑防止条例では、盗撮だと考えられる以下の行為(※5条1項2号を要約)が禁止されています。
正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、住居、便所、浴場や公共の場所、公共の乗り物などにおいて、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること