意外に狭い?著作物の無許諾利用ができる私的使用の範囲

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”私的使用なら著作権者から許諾を得なくてもOK!”・・・という話は比較的よく知られていると思います。

しかし実はこれは正確ではありません。
利用方法によっては大きな落とし穴が待ち受けているかもしれません。
どのような場合に、どのような利用方法であれば著作権者からの許諾が不要となるのか、しっかり考えてみることにします。

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「私的使用」とは?

多くの人にとって最も身近な権利制限規定だと思いますが、そもそも著作権法(以下「法」といいます。)では「私的使用」はどのように定義されているのでしょうか。

その定義が存在するのが法第30条です。(※太字は筆者による)

(私的使用のための複製)
第三十条 
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(以下略)

「個人的」または「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」で使用することが「私的使用」とされています。

まず、「個人的」とは、仕事関連で使用するのではなく、個人的な趣味や娯楽などのために利用すること、という意味になります。

ここで注意が必要なのが、たとえ会社からの指示ではなく個人の考えで行う場合であっても、会社の業務や職業・事業に関するもの、例えばプレゼンの資料とするために書籍や雑誌などから一部分をコピーすることは、それを誰にも見せない、配布しないで参考にするだけであっても個人的な使用には該当しないと考えられます。

ただ、筆者のような個人事業主が行う複製行為は「個人的な使用」に該当するのか?という点は判断が難しいと思います。
資料としてクライアントに渡すために書籍の一部をコピーすることは「個人的な使用」に該当しないと思いますが、あくまで業務に関する知識を仕入れるために購入した書籍をスキャンして電子化(いわゆる”自炊”)する行為は「個人的な使用」となるのかはハッキリしていません。
つまり、法目的に照らしながら、権利者に及ぼす影響等を勘案して常識的な判断をしていかざるを得ない(作花文雄『詳解 著作権法(第5版)』(ぎょうせい,2018年)298頁)と考えられています。

また、「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」とは、明示されているとおり家庭内のほか、ごく親しい友人数人の間のような、属するメンバーの間に強い個人的結合関係が築かれているグループというのも”これに準ずる限られた範囲”に該当すると考えられます。
つまり、大人数(著作権法立法者の見解から考えると10人程度を越えるような場合です ※加戸守行『著作権法逐条講義[六訂新版]』 (CRIC,2013年)231頁)のサークルや、少人数であっても強い個人的結合関係がないもの、例えば町内会、マンション管理組合、学校の職員会議などは該当しないと考えられます。

以前別の記事でも書きましたが、年賀状に利用するような場合も私的使用には該当しないと考えられます。

年賀状への使用から考える写真の著作権

許されるのは「自分で行う複製」のみ!

そして、ここが最も重要な点です。

私的使用に該当する場合であっても、著作権者の許諾なしに使用できるのは「複製」のみです。
それ以外の使用は(後述する他の権利制限規定に該当する場合を除き)無許諾ではできません。

よって、複製以外の使用、例えばブログやSNSへの投稿、公衆への譲渡(販売など)や貸与を行うためには、著作権者からの許諾が必要となります。
特にSNSなどへの投稿(もちろん、扉絵やプロフィール画像への使用も含みます)については気軽に無意識に使用している方も少なくないと思いますが、権利者からの警告がないからといって決して許諾されているわけでもありませんので、注意が必要です。

つまり、個人的な使用での複製とは、具体的には、テレビ番組を録画したり、移動中などに聴くためにレンタルCDショップから借りてきたCDの曲をスマホなどに転送したり、子どものお弁当に有名キャラクターを描いたり(いわゆるキャラ弁)、といったことが該当します。

ただ、注意が必要な点もあります。
先述の条文を見ていただきたいのですが、ポイントは「その使用する者が複製することができる」です。
つまり、この法30条1項の規定により複製物を合法的に利用できるのは、その複製物を使用する本人が複製を行った場合に限られるということです。

この規定で問題となったのがいわゆる自炊代行業者で、個人が個人的に使用するためであっても、その複製行為(電子データ化)を事業者が行ってはならない、ということになります。

自炊や電子化に限らず、他のものであっても個人からの依頼で事業者が無許諾で複製を行うことはできません。
例えば、ケーキ屋さんが、権利者からの許諾がないのに有名なキャラクターをデコレーションしたケーキ(キャラケーキ)を製造することは複製権違反になり得ますので十分ご注意ください。
近年ではかなり減っているとは思いますが、他人が作成した(他人が権利を持っている)キャラクターでケーキを作る場合は、必ずその権利者から許諾を得るようにしてください。

厳密に言うと、ケーキ屋ではない「お菓子作りの上手な友人」が依頼を受けて無償でキャラケーキを作る場合でも、複製を行った人と複製物を利用する人が異なるため、”私的使用のための複製”ではないことになりますが、、、これぐらいは許容されても良いのではと筆者は思います。(※あくまで筆者の感想です。実際には権利者の考え次第です。)

私的使用の複製でも違法となる例外

このように、私的使用を目的とした複製であれば権利者からの許諾を得なくてもできるのですが、何点か例外も定められています。

まず、「技術的保護手段回避による複製」の場合(法30条1項2号)です。
具体的には、市販のDVDやBlu-rayに施されているコピーガードを解除してコピーする行為です。

また、「違法サイトからのダウンロード」の場合(法30条1項3号)です。
違法にアップロードされた音楽または映像のコンテンツであると知りながら、それをダウンロード(複製)することはたとえ個人が楽しむだけの目的であっても私的使用の複製には該当せず、特に本来は有料で提供されているコンテンツであることを知りながらダウンロードした場合は刑事罰(2年以下の懲役若しくは 200万円以下の罰金)の対象にもなります。

なお、2021年1月1日から施行される改正著作権法では、音楽や映像に限らずあらゆる著作物が対象となります。

さらに、これはお馴染みだとは思いますが「映画の盗撮」(映画の盗撮の防止に関する法律)です。映画館で本編の上映前に出てくる、あれですね。
たとえ個人的に見るだけであっても、国内で最初に上映されてから8か月以内の映画は、映画館等で録音・録画することは違法となります。

また、これは要注意な点ですが、私的使用のために合法的に複製したものであっても、その後私的使用の範囲を超えて利用したような場合(他人に配った、SNSにアップロードした、など)は複製を行ったものとみなされる(法49条1項1号)ため、権利者の許諾がない場合は複製権侵害となります。

そのため、非常に厳密に言えば、子どものために有名キャラクターを忠実に再現したお弁当(キャラ弁)を作成した場合、それを子どもに持たせたり、自分で見る目的で写真撮影するだけであれば問題ありませんが、そのキャラ弁の写真をSNSにアップした時点で私的使用の範囲を超えてしまい、複製権侵害であると考えられます。ただ、このようなケースにまで警告をしてくる権利者はかなり少ないとは思いますが。。。

もう1つ、皆が使うために設置されている自動複製機器(ダビング機、コピー機など)を使って複製する場合も私的使用のための複製ではない(法30条1項1号)という規定が存在するのですが、文書や図画の複製のための機器(コンビニにあるコピー機など)は当面の間適用除外とされているため(附則5条の2)、実質的にこの例外規定に該当する場合はほぼ存在しないと考えられます。

非営利なら問題無い、という誤解

先述のとおり、私的使用の目的であれば無許諾でできるのは複製のみです。

ただ、私的使用に似ているためなのか、よく混同される条項があります。それが法38条1項です。(※太字は筆者による)

(営利を目的としない上演等)
第三十八条 
公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

営利を目的とせず、そのコンテンツを見聞きする人から料金を徴収せず、またそのコンテンツを提供する人に報酬が支払われない場合は、著作権者の許諾なしでも利用できる、という規定なのですが、注意が必要なのは、この規定により許される利用は「上演、演奏、上映、口述」に限られるという点です。

つまり、非営利・無償・無報酬であっても、SNSへの投稿(=公衆送信)などは無許諾で行うことはできません。

SNSなどを見ていると、「個人的に非営利でやっているのだから問題無い」「著作権侵害になるのは営利目的だったりお金が発生した場合だけ」と考えている方も散見されますが、これらは誤りです。
著作権侵害は、著作権侵害行為をした者に利益が生じたか否かで決まるものではありませんので、十分にご注意ください。

違反者に利益が生じていない場合は、権利者が権利を行使しない(黙認する)場合というのも多々あるかと思いますが、だからといって権利侵害が許されるものでもありません。
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