著作権移転の際は登録必須?!改正民法による影響とは

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2020年4月1日から改正された民法が施行されました。
この改正では、かつてないほど多くの条項が変更され、または追加削除が行われていますが、その中に著作権にも影響する改正点がありますので、ご紹介いたします。

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売主に対抗要件具備義務が!

その条文が、民法560条です。

(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)
第560条
売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。

改正前の560条とは異なり、売主が権利の移転についての対抗要件を買主に備えさせる義務を負うことが明文化されました。

なお、対抗要件とは、契約の当事者以外の第三者に対して、権利の移転等の効力を主張できるために必要な要件のことをいいます。

具体的には、例えば不動産の売買による所有権の移転であれば「登記」(民法177条)であり、不動産ではない商品の売買による権利移転については「引渡し」(民法178条)となります。

ちなみに、改正前の560条は以下の条文です。対抗要件に関する規定はありませんでした。
(他人の権利の売買における売主の義務)
第560条
他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

この民法560条をはじめとする売買に関する規定は、請負や賃貸借など売買以外の有償契約にも準用されますので(民法559条)、例えば物の製造に関する請負契約であれば、請負人(受注者)は、製造したものを注文者(発注者)に引き渡す必要がある、ということになります。

この点に関しては、改正前でも”権利を取得して買主に移転する義務を負う”とされており、一般的な売買においては影響が出ることはほぼ無いと考えられます。
また、不動産の売買においても、一般的には登記(所有権移転登記)を行うという共通認識があると思いますので、こちらでも影響は少ないと考えられます。

このように、一般的な売買や請負などに関してはほぼ影響は無いのですが、「著作権の移転」については状況が異なります

著作権を譲渡する契約はよくあると思いますが、対抗要件を備えることについてまで規定している場合は少ないのではないでしょうか。

著作権譲渡にも関係すると考えられる

ビジネスにおける著作権の譲渡については、売買(民法555条)の規定に該当する場合が多いかと思いますので、この新しい560条の影響が及ぶものと考えられます。

逆に、無償で譲渡する場合は適用されないと考えることができます。

また、イラストやホームページなどの制作において、著作権が注文者に移転する契約となっている場合もあると思います。
このイラストやホームページの制作業務自体は”業務委託契約”のような名称での請負契約であることが一般的ですが、先述のとおり売買契約の規定は請負契約にも準用されますので、対抗要件に関する義務も影響すると考えられます。

著作権譲渡における対抗要件とは?

著作権の譲渡についても対抗要件に関する義務が影響するとなると、どのようなことを行えば対抗要件を備えたということができるでしょうか?
不動産やその他有体物の動産とは異なり、法務局に行っても著作権の登記はできませんし、目に見えない”権利”であるため引き渡すこともできません。

そこで、著作権については従来から別の対抗要件が定められていました。
それが「著作権登録制度」です。

著作権登録には、「実名の登録(著作権法75条)」や「第一発行年月日等の登録(著作権法76条)」などが定められており、今回はその中の1つ、「著作権の登録(著作権法77条1項1号)」が該当します。

この登録を文化庁(プログラムの著作物の場合は「一般財団法人ソフトウェア情報センター」)に対して申請し、登録が認められれば登録原簿が作成され、登録が完了します。

登録については、過去に別記事を書いていますので、そちらをご参照ください。

著作権ビジネスの強い味方!?著作権の登録制度

この対抗要件に関する義務は、売主(著作権を持っている側)が負う義務でありますが、契約自由の原則により、当事者間の契約によってこの対抗要件に関する義務を排除することもできるかもしれません。
しかし、この義務の有無に関わらず、著作権の移転を第三者に対抗するためには著作権の登録が必要であることには変わりありませんので、著作権が重要となるビジネス以外においても、著作権譲渡に関する契約を交わす際は、この著作権登録についても検討する必要性がかなり高まるのではないでしょうか。

560条の規定は売主の義務ですが、それにかかる費用は売主と買主のどちらが負担するのかは明示されていません。民法558条により双方が等しい割合で負担する、と考えることもできますが、当事者の合意により登録に要する費用は買主が負担することも可能ですので、著作権譲渡に関する契約書において誰が登録費用を負担するのかを明確にしておくことは重要だと思います。
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