原作者の意向を無視した脚本はどうなのか

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最近ではドラマやアニメ、映画などに小説を原作としたものが多く製作されるようになりましたが、そのドラマなどの脚本を作るためには原作者の許諾が必要ですよね。

その許諾を基に、脚本家が脚本を制作することになるのですが、どの程度原作に忠実に作るのか?というのは脚本家やドラマなどのプロデューサーの意向に左右されます。
原作に忠実に作る場合もありますし、原作の設定や背景などを大きく変える場合もあります。

では、設定を変える場合に、原作者の意向というものは反映されるのかどうか?について、興味深い裁判がありました。

元の記事はこちらです。
NHKの訴え棄却 原作のドラマ化契約解除巡り東京地裁 – 朝日新聞デジタル

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脚本に納得できずドラマ化を中止要請

NHK が小説を原作にドラマを制作して放送する予定だったのが、ドラマの脚本に納得できない原作者の要望により制作が直前に中止されたため、原作者から著作権の管理委託を受けていた講談社に対して損害賠償を請求したという裁判です。

実際の判決文を読んでいないため不正確な情報ですが、この小説を原作としてドラマを放映するという企画の時点で、原作者には許諾を得ていたものと推測されます。
ですが、実際に制作された脚本では原作から大きく改変されており、それに対して原作者は何度も修正の要請をしていたようです。

改変はよくあるがどこまで許されるのか?

小説などを原作とする場合、まったく同じものではなく多少改変されることはよくあると思います。
ドラマやアニメ化される際に、設定が変わったり、原作にはないキャラクターが出てくることもあり、それがまたドラマなどの面白みに繋がることもあります。

原作は「母と娘」がテーマで、主人公は母親との葛藤があり、物語の終盤まで会いに行けないという設定。だが、脚本では、初回で娘が実家に立ち寄るなど、大きく改変されていた。

ただ、これを読む限り、小説の根本的な部分が改変されているように感じられます。
母と娘が会う会わないは非常に重要な点であり、脇役キャラクターが増えるといった次元の改変を大きく超えていますよね。

これでは、原作者が納得できないというのも納得できます。

許諾契約が否定された

東京地裁の判断では、

「(原作者側から)脚本の承認がされていない以上、許諾契約が成立したとは言えない。(NHKは)小説の主題に関する理解が十分でなかったきらいがある」

という判断により、原作の利用許諾契約が成立していないため、NHKの請求を棄却しています。

原作を元にした脚本というのは「二次的著作物」になるため、脚本家も著作者として自身の思想や感情を盛り込むことが出来ます。
原作があるからといって、脚本もそれに縛られなければならない、というわけではないと思います。

ですが、原作としてこの小説を選んだ以上、主題を変えるような改変というのはさすがにやりすぎです。
主題があってこそ小説の内容が成立しているような場合、その主題を変えてしまっては小説を原作として掲げる意味も薄らぎます。

第三者は口を出してはいけない?

この裁判において、NHKの担当者は

「放送局として我々が作る編集内容に関して第三者が口を出せることを認めてしまうこと自体がほとんど検閲にあたる」

と証人喚問で訴えたようです。

なにが検閲なのかまったく理解できない主張ですが、そもそも脚本に異議を申し立てているのは、無関係の第三者ではなく原作者です。
原作者が生み出した小説を元に脚本を作るのですから、当然その原作者の意見というものは無視できる物では無いと思います。
著作権法でも、脚本などの二次的著作物についてはその脚本の著作者と同じ権利を原作者も持っている(28条)と規定されているくらい、原作者の権利・意向というものは重視すべきという意図に感じます。

もちろん、どんなことにでも原作者の意向を反映させていては、脚本家の個性が発揮できませんので、程度問題ではあると思います。

そんなに自分たちの脚本、編集内容が重要であれば、原作を元にするのではなく完全オリジナルものを制作すべきだと感じてしまいます。

NHK側が控訴するかどうか現時点では未確認ですが、この判決が確定すれば、二次的著作物における意図しない改変に対して原作者の請求がより認められやすくなると思います。
その反面、脚本を作る側には制約が多くなる可能性もあるため、双方でしっかり合意しておくことが重要ですね。

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