コンテストの応募に権利譲渡は必要か?小中学生対象の作品募集から考える著作権

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目的は様々ですが、地方公共団体やその他団体が主体となって、作文、写真、絵画、標語などの作品を募集するケースはよくあると思います。
特に、記事執筆時点では子どもたちは夏休み期間中であるため、こういった時期には小中学生などの子どもを対象にした多くの募集やコンテストが開催されています。

しかし、残念なことに一部の募集において、応募者の著作権を軽視しているように感じられるものも少なくありません

その幾つかについて、ツイートで取り上げました。

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小学生の作品でも著作物

基本的に、著作物の定義(著作権法2条1項1号)に該当する作品であれば、著作物としてその作者に著作権が発生します。
それはプロの作家であったり画家、写真家に限定されるのではなく、作者が小学生でも中学生でも保育園児でも同様であり、著作物の定義に該当する作品であれば自動的に著作権が発生し保護されます

そして、著作権とは、作者である著作者の死後70年間も保護される重要な財産権です。

だからこそ、ビジネスの世界では譲渡に慎重になるクリエイターも多いですし、また譲渡する場合はそれ相応の対価を請求する場合も多いです。

応募しただけで権利が取られる

それにも関わらず、上記ツイートのような募集において、「著作権は主催者に帰属」、つまり作者から主催者に自動的に譲渡されるものとなってしまっています

しかも、学習の一環という位置付けを理由としているのかはわかりませんが、著作権譲渡の対価は明示されておらず、おそらく1円も支払われないものであると考えられます。

さらに、この著作権譲渡の対象となるのが「応募作品」であること、つまり入賞したかどうかに関係なく、応募しただけで著作権という重要な財産権が主催者側に移ってしまうのです。

どんな作品であっても、子どもたちが自分の時間を割いて、一生懸命に頑張って作成したものと思います。

そのように苦労して完成した作品も、応募したことによって著作権を失ってしまい、(主催者の許諾がある場合や著作権法により権利者の権利が及ばないとされている利用方法である場合を除いて)たとえ落選した自分の作品であっても、ネットにアップしたり、他の同種コンテストに応募したり、同人作品として頒布したり、将来有名になったときに幼少時の思い出として雑誌インタビューに掲載したり、音楽であれば多くの人前で歌うこともできなくなってしまうのです。
大切な作品なのに、日の目を見ることができなく、埋もれてしまう可能性が高くなってしまうというのは、作者としては悲しくないですか?

応募する子どもたちはもちろん、その親であっても、果たしてここまで理解した上で応募しているのかは疑問です。

「主催者だってそこまでうるさく言ってこないだろう」という考えはあると思いますが、著作権を譲渡したのであれば先述のような利用は法令上”違法状態”となり得るものであり、自分の作品が権利行使されるかされないかという主催者側のコントロール下に置かれてしまう状態が健全であるとは考えにくいのではないでしょうか。
なお、個人的な利用であれば問題無いと考えている方もいると思いますが、権利者に無断で利用できる範囲は限られています。(参考:意外に狭い?著作物の無許諾利用ができる私的使用の範囲

これが入賞作品であれば、新聞に掲載されたり、作業車の側面にプリントされたりして多くの人の目に触れることになりますので、その名誉を得ることができると思いますが、残念ながら落選した作品にとっては、それが公開されることもないかもしれませんし、応募してくれたことへの感謝すら届かないかもしれません。

特に上記1つ目のツイートは、主催者が法務局であり、共催が営利企業である新聞社です。人権に関する作文の募集ですが、このような強制権利譲渡というルールは、(応募は任意であり権利譲渡にも同意した上で応募しているはずという前提があるにせよ、)応募者の財産権を侵害し、考え方によってはある意味人権の侵害に繋がり兼ねないのではないかと思います。

なぜ譲渡が必要なのかを考える必要性

もちろん、募集する側としては、自分たちが著作権を有することで作品の利活用を行いやすいというメリットのためにこのようなルールを設けているのであると推察されます。

しかし、十分に検討した上で、権利譲渡の必要があると判断したのでしょうか?

入賞した作品を利用したいということであれば、著作権を応募者に残したまま、主催者側が利用許諾を受けるだけでも問題無い場合もあるのではないでしょうか?

応募者により転用を防ぎたいのであれば、そちらの方をルール化するという選択肢は無いのでしょうか?

特に、入賞作品であればまだしも、応募された作品すべての著作権を譲り受ける必要性は何でしょうか?

「よくわからないけど、とりあえず権利を持っていれば便利だから」程度の認識でこのような強制権利譲渡ルールを定めているのであれば、それは再考が必要なのでは無いかと思います。

逆に、明確な理由があるのであれば、応募予定者に対してそれを先に示すことが重要なのではないかと思います。

大人こそ権利保護の見本を

昨今、小中学生による著作権侵害問題(他人の著作物を無断転載する等)が散見されるようになり、義務教育で著作権を教えるべきだといった言説も見かけるようになりましたが、その一方で、地方公共団体や法務局といった公的な仕事を行う機関が、小中学生の著作権を蔑ろにするような行為をしています。

改めて著作権の重要性を認識し、また子どもたちの人権も十分に尊重して、大人たちがしっかりと「権利保護の見本」を示す必要があるのではないでしょうか。

権利保護の重要性は子どもたちの作品に限った話ではありません。以前と比べるとかなり減った印象はありますが、大人を募集対象にしたコンテスト等の一部でも、応募作品の権利譲渡が応募条件となっている場合もあります。なぜ譲渡が必要なのか、しっかり検討する社会となることを願っています。

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