”○○風アレンジ”といった、原曲から編曲(アレンジ)された音源や演奏などは、テレビ番組やYouTube、SNSなどでも目にすることがあると思います。
同様に、元の歌詞の一部を変えて歌う「替え歌」も、多くの人が聴いたことがあると思いますし、また実際に替え歌を作った経験のある人も少なくないのではと感じます。
このように、編曲や替え歌のような、元の作品から改変されたものというのは珍しいものではなく、むしろ一般的とも言えるようなものでありますが、ただ音楽という著作物の改変に当たる行為でもあるため、著作権法(「法」)の規定からすると問題となる場合があります。
”要許諾”が原則
編曲や替え歌というのは、音楽の著作物を改変するものですが、法ではこのような改変行為を行う権利は著作権者だけが持つ(=専有する)ものと定められています(法27条。この記事では「編曲権」と呼ぶことにします)。
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
つまり、著作権者ではない者が編曲や替え歌作成を行う場合は、著作権者から許諾を得る必要がある、ということが原則です。
『替え歌メドレー』などが有名なシンガーソングライターの嘉門タツオさんも、替え歌の中に登場させる人物からの許諾だけでなく、原曲の著作者(作詞者・作曲者)からも許諾を得ていると公言されており(参考:「【関西レジェンド伝】嘉門タツオ(4)「替え唄メドレー」許可とるのが大変!中井貴一の事務所が激怒」サンスポ 2019/02/05)、許諾を得られなかった場合はその曲はいわゆるお蔵入り曲としているようです。
また、法27条の権利だけでなく、著作者だけが持つ著作者人格権の一つである「同一性保持権」(法20条)により、著作者の意に反する改変が権利侵害となる場合があります。
このような法の規定により、編曲や替え歌作成を行う場合は、著作権者だけでなく著作者である作詞者・作曲者からも許諾を得ておくことが重要です。
JASRACは許諾を出せない
ここで落とし穴となり得るのが「JASRACに申請しておけば大丈夫」という誤解です。
確かに、JASRACは多くの作詞者・作曲者・音楽出版社から著作権を譲り受ける(信託譲渡)ことにより、これらの著作権者の著作権を管理していますので、公衆に対して楽曲を演奏したり歌ったりする場合は、対価を支払うことで著作権者であるJASRACから許諾を得る必要があります。
しかし、編曲権はJASRACには譲渡されないようになっていますので、JASRACが許諾を出すことができません。
つまり、JASRACに著作権使用料を支払ったとしても、それはあくまで楽曲の演奏や配信等に関するものであって、楽曲を編曲・改変することができるというものではありません。
YouTubeやTikTok、Instagramなどは、JASRACとの包括契約があることによって、許諾手続きや追加費用の支払いなどを行うことなくJASRAC管理曲をアップロードすることができますが(ただし音源の権利=原盤権は要確認)、例えばポップス曲をジャズ風にアレンジして歌うという場合には、そのポップス曲の著作権者(法27条の権利を持つ者)から許諾を得る必要がある、ということになります。
また、同一性保持権を含む著作者人格権は著作者だけが有する権利で、他人に譲渡することができないものであるため、こちらもJASRACは管理していません。
問題になった事例も
このように著作者や著作権者からの許諾を得ることが原則ではありますが、実際には無許諾で編曲や替え歌作成を行っている場合は多いように感じます。
これは、個人レベルで小規模でやっているような場合であればそれに対応するコストは決して無視できるものではなく、また逐一個人に対して警告などを行うことで他の消費者に悪い印象を与えかねないということもあり、著作者や著作権者側が積極的に取り締まるような行動を起こしていない影響が考えられます。
また、編曲については、JASRACと直接契約していない作曲家による楽曲の場合、契約により音楽出版社に編曲権を含む著作権の一切を譲渡している場合が多いのですが(※後述の記事参照)、編曲権を行使できる音楽出版社としては、編曲作品の制作に対して差し止めるメリットが特にないため(※)、権利行使してくるケースは極めて希というのが現状です。
いわば”グレーゾーンの利用”であり、”黙認されている”状況と言えるのかもしれません。
しかし、常に黙認されるかというと決してそうではなく、特に同一性保持権に関連してトラブルになった事例というのも存在します。
例えば、著名な童謡の歌詞の一部を改変(途中に歌詞を追加)した作品を発表した芸人に対して、その改変行為が同一性保持権の侵害だとして訳詞者が販売差し止めなどを求めた事件があります。
(※その後和解したため、差し止められることなく販売されています)
また、有名な合唱曲をジャズアレンジしたものをレコーディングしてCD販売したアーティストに対して、合唱曲の作曲者が編曲権および同一性保持権の侵害だとして販売差し止めを求めた事例もあります。
こちらは、作曲者が裁判所に対してCDの販売停止や演奏中止を申し立てており、当初は販売元のレコード会社としてもアレンジが加わるのは一般的であるとして争う姿勢を示していましたが、アーティスト側が作曲者を尊重する姿勢を示していたため、争うのを断念して和解し、CDの出荷停止と今後の演奏を行わないことを決定しました。
どちらの件も、楽曲の制作・販売にあたって予めJASRACから演奏・録音の許諾を得ています。
それでも、原曲に手を加える場合は、原曲の著作者から許諾を得ることが大切だと言えます。
変えるなら徹底的に
このように、編曲や替え歌については著作者からも許諾を得ることを検討する必要があるのですが、特に個人が著作者本人から許諾を得るというのは現実的には難しいということも考えられます。
そのような場合に、替え歌を作るにあたって著作者(作詞者)からの許諾を得なくてもよい方法があります。
それは、元の歌詞を利用しないことです。
完全に作り替えて元の歌詞の原型が残っていないのであれば、それは元の歌詞とは別の著作物になりますので、作詞者から許諾を得る必要がなくなります。
イラストや文章なども、たとえ他人の著作物を参考にした場合であっても、その原型がわからないほど変えることで”元の著作物の本質的特徴を直接感得することができない”ものとなり、複製にも翻案にも該当しないことになります。
利用には節度を守って
以上のように、厳密に言えば、著作権者からの許諾を得ない限り編曲・アレンジはできませんし、著作者から許諾を得ておかないと安心して利用することができないのですが、これを絶対的なものにしてしまうと、著作物の利用が阻害されてしまい、著作権法の目的である”文化の発展に寄与”することにも障害となるおそれがあります。
よって、許諾を得る窓口や手段があるのであればしっかりと許諾を得た上で利用しなければなりませんが、もしそれが難しい場合は、”違法性のある利用”であることを認識した上で、著作物と著作者・著作権者を尊重して、節度を守って利用することが大切です。