とある著名な漫画をアニメ化した作品に作画監督・キャラクターデザイナーとして携わった人物が、そのアニメ作品のキャラクターのイラストを描いてオークションサイトで販売していることが話題になっていました。
それについての雑誌社からのインタビューに対して「アニメ用のイラストは線が細く、簡略化されています。私がデザインしたものを勝手に描いて何が悪いんですか」(※)と答え、自分がデザインした作品だから問題無いと考えていたようですが、このようなケースにおいて、著作権的にどのような問題が存在するのかを考えてみます。
(※)『「メーテル」のイラストをヤフオクに無断出品 「銀河鉄道999」アニメーターの強欲ぶり』(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190730-00573805-shincho-ent)より引用
二次的著作物に該当する可能性
前提として、原作漫画からアニメ化する場合において制作されるイラストやキャラクターデザインは、作画監督が独自に生み出したものではなく、原作となる漫画作品に描かれているものを基にして描かれたものであると言えます。
そして、単に元の漫画イラストをそっくりそのまま複製するのではなく、自身の表現(線の太さや簡略化、ポーズ変更など)を加えていることによって、元の漫画イラストとは別の著作物とみなされることもあります。
このように、既存の著作物(=原作漫画)を基にした上で(=依拠して)、自信の表現を追加して生まれたものは「二次的著作物」であると考えることができます。
原則としては、この二次的著作物の作者が著作者となりますので、二次的著作物であるアニメ用キャラクターデザインは、それを作成した者が著作者であり、著作権を有することになります。
そう考えると、「私がデザインしたものを勝手に描いて何が悪い?」と思ってしまうかもしれません。
しかし、上記はあくまで「原則」であり、例外もあります。
著作権を有しない可能性
まず想定される”例外”は、そもそも著作者ではない場合です。
一般的に、アニメ映画においてキャラクターデザインを行った者は、その映画の著作者の一人であると考えられます(詳細は後述)。
しかし、そのキャラクターデザイン作業が職務著作(著作権法15条)に該当する場合は、キャラクターデザインを行った個人ではなく、その個人が属する法人が著作者となります。
ただ、監督として作品に関わる人は、必ずしもアニメーション制作会社の従業員というわけではなく、フリーランスの監督として関わることも多いようですので、その場合は職務著作には該当しないことになります。
次の例外として想定されるのは、著作者ではあるが、著作権者ではない場合です。
テレビアニメ作品は「映画の著作物」とされ、その著作者はその映画の全体的形成に創作的に寄与した者(監督、演出、撮影、美術などを担当)とされています(著作権法16条)。
今回の場合はアニメ作品の作画監督ですので、この規定により著作者であると考えることができます。
しかし、映画の著作物は、他の著作物とは異なり、最初から「著作者」と「著作権者」を分けて考えるようになっています。
そのため、著作者は先述のとおり監督などが該当するのですが、通常、監督などは「映画製作者」に対して、その映画に参加することを約束していますので、著作権はその「映画製作者」に帰属するようになっています(著作権法29条1項)。
そしてこの「映画製作者」とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう」(著作権法2条1項10号)とされており、一般的にはその映画製作の資金を提供するとともに映画作品の責任を負い、映画製作現場を取り仕切る者(近年では複数の会社が出資して権利も分配しあう”製作委員会”が多い)が多いようです。
冒頭で取り上げた事例の場合、「制作」としてクレジットされている会社がありますので、これらの会社が著作権者であることが推測されます。
つまり、作画監督は著作者であっても、著作権は上記会社が有しているため、作画監督は権利者に無断で複製などはできない、つまり自由にキャラクターを描く(=複製)ことができない、と考えられます。
契約上の許諾範囲外という可能性
また、著作権法の解釈による権利帰属の問題以外にも、契約上の問題も考えられます。
そもそもアニメ化するという時点で、原作者からアニメ制作者(映画製作者)に対して複製と翻案の許諾がなされているはずであり、それがサブライセンス的に作画監督にも波及することで、フリーランス・業務委託の作画監督であっても複製・翻案する権利を有していると考えることができます。
しかし、実際の契約内容にも依りますが、あくまでもこの許諾はアニメ化作業に限ったものであり、アニメ制作以外では複製・翻案が許諾されていないこと、そしてアニメ制作が終了した時点でこの許諾も終了しているものと考える方が自然だと思います。
そのため、アニメ制作から時間が経過しているような場合は、原作者に無断で原作漫画イラストを複製・翻案することはできない(※著作権法で許諾されている場合を除く)と考えられます。
二次的著作物特有の制限も
このように、キャラクターデザインを行った作画監督であっても、そのデザインに対して著作権を有しているとは限らず、また自由に利用できるとも限りません。
また、仮に著作権を有していたとしても、原作漫画のアニメ化にあたって制作されたキャラクターイラストは、原作漫画のイラストの二次的著作物に該当しますので、この場合、原作漫画の著作者(原作者)も二次的著作物に対して著作権を有しています(著作権法28条)。
つまり、原作者が望まない形でイラストが販売されるようであれば、それが原作者の著作権を侵害しているともみなされ、原作者は、二次的著作物の販売(複製と譲渡)を差し止めることができると考えられます。
自分の作品でも自由に利用できないこともある
今回はアニメ制作におけるキャラクターデザインの事例ですが、こういった場合に限らず、自身のアイデアとセンス、技術により創作されたイラストなどの作品であっても、常に自由に利用できるわけではない、ということは留意が必要です。
特に「職務著作」に該当しているケースでは、社内デザイナーが業務として作成したデザインは、デザイナー個人ではなく、会社が著作者となり著作権を有することが基本となりますので、例えばデザイナーが自身のポートフォリオとして配布するには会社(クライアントワークの場合はそのクライアントも)の許諾が必要となります。
自己の自信作や代表作、あるいは思い入れのある作品であっても、自身が権利者ではない場合は、利用の前にしっかりと許諾を得るようにしましょう。