著作権を取り扱う上で無視できないのが「契約」。
「契約自由の原則」により、原則的にはどのような内容の契約でも結ぶことができます。
では、著作権に関しても、どんな内容の契約も有効となるのでしょうか。
よく考えると頻繁に発生している、法律の規定と契約の規定がぶつかる場合を考えてみます。
よくある「複製禁止」条項
著作権に関する契約や利用規約、約款などによくあるのが「無断複製禁止」条項。
「権利者の許諾なく複製することを禁じます。」のような文言で、CDや楽譜、書籍など、多くのシーンで目にすることがあり、権利者の許諾なしで複製(コピー)することを禁止したい場合に契約などに盛り込まれます。
権利者としては、勝手にコピーされては困る、と考えるのは理解できますし、そもそも著作権法においても原則として複製権を有する者だけが複製の可否をコントロールできるとされています。
つまり、複製禁止とすることは、権利者の正当な意思表示であり、また著作権法の原則の通りということになり、何も問題が無いように感じられます。
著作権の制限規定
しかし、著作権法では、もう1つの重要な側面も規定されています。
それが「制限規定」で、著作権法第30条から49条にかけて規定されている、著作権者の権利の一部を制限する内容のことです。
個人的、家庭的な範囲で非商用目的に限って無断で複製できる「私的使用の複製」(第30条)や、一定の条件を満たすことで可能となる「引用」(第32条)などはご存じの方も多いと思います。
複製に限れば、先述の第30条による私的使用の場合や、第32条の引用、第31条による図書館等における複製等などにおいて、権利者の許諾無く複製ができるとされています。
制限規定と契約、どっちが強い?
そうなると、著作権法の制限規定により「無断で複製できる」ことと、契約による「無断で複製できない」ということと、相反する内容のどちらが有効か?という疑問が生じます。
先述した通り、日本の法律では原則として”契約自由”ですので、公序良俗や強行法規などに反しない限り、通常は契約の方が優先します。
よって、例えば民法(第566条・570条)で定められている瑕疵担保期間は1年ですが、民法(第566条)で定められている契約不適合責任は買主が契約不適合を知ってから1年ですが、契約により期間を延ばすことも減らすこともできます。
遺産相続においても、遺産分割協議書というある種の契約により、民法の規定(第900条)とは異なった分割にすることができます。
これらと同様に、無断複製を認めている制限規定も、契約によって”複製禁止”とすることができる、という考えができます。制限規定を”任意法規”だとする考え方で、契約により法律の規定を上書き(オーバーライド)するということですね。
しかし、これとは逆の考えも存在します。
制限規定は”強行法規”のようなものであり、上書きはできず法律が優先する(つまり制限規定に合致すれば無断複製OK)、というものです。
著作権法で本来は無断複製を認めないという立場でありながら、わざわざ制限規定という例外を設けたわけですから、それを取り消して結局本来の形を優先させるのはおかしい、という理屈も一理あります。
で、結局どっち?
長々書いてきて未だ結論を書いていませんが、実は、法律と契約のどちらが優先するのか、どちらの考えが採用されるのかは、明確には決まっていません。
つまり、ケースバイケースの判断となってしまっています。
契約実務において非常に有益かつ重要な指針となる、経済産業省が策定している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成27年4月版)においても、著作権法上の権利制限規定とユーザーに利用制限を課すことについて、2つの異なる解釈があることのみを挙げ、利用制限を課す契約が有効なのか無効なのかの明言を避けています。
このようなどっちつかずの状況は決して良いとは言えませんが、しかしどちらかに決めてしまうと弊害も多く、結局現状を維持するしかないのかもしれません。
契約や約款、利用規約などを策定する際は、このような相反する解釈があることは留意しておいたほうが良いかもしれません。