最近、インターネット上にある画像の無断使用に関するニュースが2件立て続けに報じられました。
1件目は検索して見つけた画像の利用、そして2件目は画像販売サービス(ストックフォト)の規約に違反していると考えられる事例です。
無料とネットで確認したはずが…チラシのイラストは「無断使用」、市が46万円支払いへ (読売新聞オンライン 2021/12/06)
法務省HP、画像の無断使用で謝罪 「外注の業者に事実関係を調査している」(弁護士ドットコムニュース 2021/12/08)
1件目はチラシ、2件目はホームページでの利用ですが、このようなチラシやホームページの作成において他人が作成した写真やイラスト(以下「画像」といいます。)を利用する場合は多いですので、商品として販売されているものを利用する場合も含めて、改めてネット上にある画像の利用について考えてみたいと思います。
基本的に他人のもの
まず大前提として、自身が作成(撮影)しアップロードした場合など、自身が権利者であることが明白である場合を除き、インターネット上に存在する画像のほぼすべてが「他人が作成し、他人が権利を有するもの」であるという認識を持つことが重要です。
SNSではよく”拾った画像”と称して他人が作成した画像を投稿する行為が見受けられますが、画像は決して落ちてはいません。
”拾った”のではなく、多くの場合”違法コピーして利用している”というほうが近いのかもしれません。
著作権法を基に考えると、ネット上にある画像を無断で投稿(複製して公衆送信)することは著作者の権利の侵害になります(※引用など例外的に合法となる場合を除きます)。
冒頭で紹介した1件目の記事も、”「イラスト」「無料」”などのキーワードで検索して表示された画像を利用したとのことですが、このキーワードで表示されたからといって、表示された画像が「無許諾で無料で利用できるイラスト」というわけではありません。
著作権法では、画像などの著作物を複製したりネットにアップ(公衆送信)したりすることができる権利は「著作者が専有する」と定められていますので、原則としては著作物を利用できるのは著作者だけということになります。
つまり、著作者以外の第三者が利用したい場合は、著作者から許諾を得る必要がある、ということです(著作権法63条1項、2項)。
なお、写真やイラストを無償または有償で配布している事業者や個人もおり、こういったサービスは一般的に「ストックフォトサービス」と呼ばれますが、このようなサービスを利用する場合は、そのサービスで定められている利用規約に従うことを条件に利用が許諾(=利用権を得る)されますので、都度著作者に問い合わせて許諾を得る必要はありません。
透かし(ウォーターマーク)入りは公開不可
他人が作成した画像を利用したい場合は、先述のストックフォトサービスを利用することが一般的ですが、繰り返しになりますがそのサービスが定めている利用規約に従うという点には注意が必要です。
特に、有償で配布、つまり画像の利用権を販売しているストックフォトサービスでは、購入前の状態では画像に「透かし(ウォーターマーク)」が入っており、この透かしによって著作権者名を表示していることが一般的です。
つまり、透かしが入っている画像というのは、「利用者はまだその画像(の利用権、ライセンス)を購入していない状態」ということも表していますので、利用権を得ていない以上、利用規約で定められた範囲を超えて画像を利用することができないということです。
”利用規約で定められた範囲”というのは、一般的には画像購入の参考のために制作途中の作品やプロジェクトで使用したり、非公開の状態で試してみるという目的での利用です。
(参考)ストックフォト各社のカンプ画像に関する規約(2021年12月10日現在)
このように、カンプ画像は正式利用の前に試してみるという目的において利用できるものであるため、一般公開した時点で利用規約違反であり、同時に著作権(複製権、公衆送信権)侵害にも該当します。
冒頭の2件目の記事はこのカンプ画像を一般公開してしまった事例です。
故意なのかミス(※下記)なのかはわかりませんが、どちらにせよ違法状態であるとは言えます。
どのような用途であっても、一般的には透かし入りのカンプ画像を一般公開する形で利用することはできませんので、十分ご注意ください。
また、ウェブサイトの受託制作におけるカンプ画像の公開は、もちろん制作者側(受託側)の責任が大きいですが、発注者側の名義で公開されることが多いと思いますので、発注者側もこのような違法状態の画像が紛れていないか、しっかり確認する必要があると考えられます。
”トレーサビリティ”が大切
このように、他人が作成した画像を利用する際には、ストックフォトサービスで配布されている画像を、有償配布の画像であれば正式にライセンスを得た上で、利用規約に従って利用することが安心です。
その他、”著作権を放棄した”旨が明示されている画像や、著作権保護期間が経過した(パブリック・ドメイン)画像を利用することも手段の1つとなります。
しかし、これで権利関係が問題無いのかというと、そうとも言い切れません。
例えば、ストックフォトサービスで販売されていたため購入し使用していた画像が、実は登録者が作成したものではなく、他人の画像を勝手に登録し販売していたような場合に、その画像の本来の権利者からクレームを受ける可能性はあります。
ストックフォト運営者も十分に対策を講じ、留意していると思いますが、しかしこういったリスクが僅かにでも存在することは確かだと思います。
特に、無償で公開され、誰でも自由に投稿し配布できるようなストックフォトサービスでは、特にこのリスクが高まると考えられます。
そのような場合に備える他、自社プロジェクトやプロダクトで使用している画像が違法に入手したものではないことを担保するためにも、有償でも無償でも、ストックフォトサービスから入手した画像について「いつ」「どこで」入手したのかを記録しておくことをお勧めします。
工業製品や食品などの流通における「トレーサビリティ(追跡可能性)の確保」と似ていますね。
この写真は筆者のAdobe Stockでの「ライセンス取得履歴」(https://stock.adobe.com/jp/Dashboard/LicenseHistory)の一覧で、購入した画像のサムネイルと購入日時、作成者名などがわかるようになっています。
他社サービスでも同様の履歴表示機能は存在しますので、この機能を利用しても良いのですが、特に会員登録不要のサービスであったり、複数のストックフォトサービスを利用している場合は、まず個々の画像についてどのサービスから購入したものなのかを調べなければならないというのは手間になります。
そこで、プロジェクトやプロダクトごとに、利用した画像の入手元(ストックフォトサービス名と各画像の固有アドレス)と入手日時をまとめて記録しておくことで、正当に入手した画像であることを立証しやすくなり、また例えば使用しているものと同じような画像に差し替える必要が生じた場合でも、同じ作者の同じシチュエーションで撮られた写真をピックアップしやすくなるなど、様々なメリットがあると思います。
このようにトレーサビリティを確保しておくことで、万が一のトラブルに際しても自社に過失がないことを証明する重要な資料となり、クレームに対して反論することもできるのではと考えられます。
”フリー”には注意
ネット上で配布されている画像には、「著作権フリー」や「フリー素材」といった言葉で案内されているものもあります。
ただ、この”フリー”には大きく2つの意味があり、「無料」で利用できるという意味で使っている場合と、いろいろな用途に使えるという意味での著作権に関して「自由」という意味で使っている場合もあります。
前者の場合、無料で入手できますが利用する際に作者に連絡する必要があるといったものや、後者であれば利用期間に応じて高額の利用料が発生する、といった場合も考えられます。
”フリー”という言葉だけにとらわれず、利用規約やルールなどをしっかり確認することが重要です。