著作権のネタ帳

学校での著作物の利用と子どもたちへの教育の必要性

先日、このようなニュースがありました。

中学校の学校通信にイラスト無断掲載 11万円賠償金支払う 川崎 (NHK)

中学校が作成する学校通信にイラストレーターが作成したイラストを無断で使用し、それを生徒や町内会への配布に加え、学校のホームページにも掲載していたようですが、これが著作権侵害に該当するとしてイラストレーターに対して賠償金を支払ったようです。

このように、学校においても著作権侵害のリスクに対して適切に対処する必要があるのですが、個人や一般の会社が利用する場合と異なり、学校における利用には別の観点での注意が必要となります。

学校教育における著作物の利用

他人の著作物を利用する場合は、原則としてその著作権者からの許諾が必要です。

しかし、著作権法(以下「法」といいます。)には、学校などで利用する場合の一部において、著作権者の許諾を得る事無く無断で利用することができる「例外」(権利制限規定)が定められています。

それが法35条の「学校その他の教育機関における複製等」です。
その条文は次のようになっています。(※太字は筆者によるものです)

第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 (略)

簡単に言うと、学校などの教育機関で授業のために利用する場合は、著作権者の許諾がなくても、複製や公衆送信を行うことができる(1項)、そして公衆送信を行う場合は補償金を支払う必要がある(2項)、ということです。

この公衆送信については、従来は離れた教室で同時に授業を行うために、授業の様子を同時中継する場合に限って権利者の許諾なく利用することができましたが、平成30年(2018年)の法改正により、このような同時中継だけではなく公衆送信全般に対して無許諾利用ができるように変わりました。

この規定は2021年4月から施行される予定でしたが、いわゆる新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴ってオンライン授業の需要が高まったことなどにより、予定を前倒しして2020年4月末から施行されることになりました。

さらに、補償金の支払いについては、2020年度中は免除されることとなっており、実際の徴収は2021年度から開始されています。

この法35条の規定があるため、授業において他人の小説を板書したり、キャラクターのイラストをコピーして授業用プリントに掲載したり、児童・生徒がネット上にある画像を利用して発表用スライド資料を作成したり、有名絵画を模写することができるなど、個人や一般企業よりも著作物を無許諾利用できる範囲が広い、というのが学校における著作物利用の特徴です。

ただし著作権者の利益を不当に害するような利用はできません(法35条1項ただし書き)。
例えば市販されている楽譜集の中の多くのページをコピーして製本した上で児童・生徒に配布するような場合が該当すると考えられます。

範囲外の利用に注意

しかし、法35条は”学校”での利用においてどのような場合にでも適用できるものではありません。

まず、この”学校”とは、学校教育法やその他の法令を根拠として設置されている機関だけが該当します。
具体的には、保育所や幼稚園、小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、専修学校、大学、学童保育、公民館、博物館、図書館、教育センターなどが該当します。

よって、法35条1項の条文内にも明示されていますが、営利を目的として設置されている教育機関には法35条は適用されません
これには民間企業や個人が運営する教育施設、カルチャーセンター、企業の研修施設、学習塾などが該当しますので、たとえ教育を目的として運営しているとしても、これらに該当する場合は法35条を根拠とする無許諾利用はできません(*1)。

音楽教室や英会話教室など”教育”を標榜しているところであっても、そのほとんどは株式会社など営利目的の者が運営していますので、それらは法35条が適用される学校ではありません。

また、”授業の過程における利用に供することを目的とする場合”に限られますので、たとえ学校で行うものであっても、授業ではないサークル活動や保護者会、学校説明会、PTA主催の講座などは対象外です(*1)。

通常想定する、教師と児童・生徒が対面で勉強する形式のものだけでなく、生徒会活動や学校行事も「授業」の範囲内であると考えられています。

今回取り上げた「学校通信での利用」というのも、おそらくこの授業目的には該当しないため、法35条の適用範囲ではなく著作権侵害と判断される可能性は非常に高いと考えられます。

同様に、小学校の卒業記念として学校のプールに有名キャラクターのイラストを描いたことに対して権利者が消すよう求めたという事例がありますが、これも授業目的での利用には該当しないと考えられるため、たとえ営利目的ではない行為であっても著作権者の許諾がなければ著作権侵害であると考えられます。

このように、学校では無許諾利用できる範囲が広いため、その境界を意識していないと許されている範囲を外れてしまうおそれがあります。
他人の著作物を利用する際は授業の過程における利用に供する目的であること、そして著作権者の利益を不当に害することにならないよう意識することが必要になるかと思います。

子どもたちを守ることも必要

教師など学校運営側としては上記のように留意しながら適切に利用することが重要となりますが、同時に考えなければならないのが、児童や生徒など法35条などによって学校で他人の著作物を比較的自由に利用できる子どもたちのことです。

先述のように、授業の目的であれば、著作権者からの許諾を得る事無く、先生だけでなく児童・生徒も著作物を複製することができます。

また文化祭や学園祭、運動会など学校行事で自由に音楽を流し、そして演奏することができます。
これは法35条ではなく法38条1項の「営利を目的としない上演等」が根拠となりますが、営利目的で運営されているものではない学校での利用であれば、多くの場合法38条1項の条件を満たすため、こちらも著作権者の許諾を得る事無く上演、演奏、上映、口述をすることができます。

これらは法律により無許諾での利用が認められている、いわば「例外」に該当するものなのですが、例外であることを認識していないと「他人の作品(著作物)であっても自由に利用できる」という誤解を与えてしまうおそれがあることも同時に考えていかなければならないと思います。

特に、最近はタブレットやノートパソコンなどデジタル端末を授業に利用する機会も増えたことにより、子どもたち自身もネット上に公開されているイラストや写真、小説などの文章、音楽などあらゆるコンテンツを自由にコピーして、それらを宿題や課題など授業の範囲で作成するコンテンツに気軽に利用していると思います。
しかし、これが著作権の”例外”として認められているものであることを意識しているケースは少ないのではないでしょうか。

このようにネット上のコンテンツのコピー利用が当たり前のものと認識していると、授業以外の私的な目的であっても気軽に無許諾利用してしまい、著作権を侵害してしまう危険があります。

利用者の多くが未成年者である小説投稿サイトで、他人の画像の無断転載が横行しているといった話題もありました。
たとえ営利目的ではなくても、投稿サイトへの画像の無断転載は複製権(法21条)や公衆送信権(法23条)の侵害と判断される可能性が高いです。

著作権侵害というのは刑事罰も定められている犯罪行為ですし、損害賠償など民事上の責任を負うこともあります。
これは「知らなかった」で許されるものではありません。

しかし、知っていれば、その抑制につながることも期待できます
子どもたちがこのような犯罪行為を犯さないよう、”著作権”というものの概要、原則と例外なども併せて教えることで子どもたちを守ることも重要であると筆者は考えます。

*1:「改正著作権法第35条運用指針」(令和2年(2020)年度版)(著作物の教育利用に関する関係者フォーラム) (PDF)

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