近年、AI(生成AI)が生み出す画像や文章、音楽などが社会の注目を集めています。
それとともに、「AIが作ったものには著作権があるのか?」という議論も盛んになっているのですが、この議論に関連してSNSを見ていると「人間が描けば著作物になる」と理解している人は少なくないようです。
しかし、この理解は誤りで、人間が創作したものであっても著作物ではない場合も多々存在します。
この記事では、AI創作物と著作権、そして著作物かどうかを判断する基準について整理します。
著作物とは何か?
まず、著作権法(以下「法」)での「著作物」の定義を確認しておきましょう。
法2条1項1号では、次のように定義されています。
思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
この中で重要なのが「創作的に表現した」という点です。
他のものを模倣しただけであったり、誰でも考えつくようなありふれた表現は、たとえ人間が作ったものであっても著作物とは認められません。
同様に、どんなに時間をかけて苦労したとしても、あるいは多額の金銭を費やして作成したとしても、創作物が結果的にありふれた表現なのであれば、それは著作物ではない、ということになります。
人間が作れば著作物、という誤解
記事冒頭でも記したとおり、AI生成物に関する議論において、「AI生成物は著作物ではないが、人間が作れば著作物になる」という誤解がしばしば見られます。
「AI生成物は著作物ではない」という点は、これだけでは不正確で、現行法による解釈では確かにAIが生成しただけ(※人間による関与がアイデアレベルのプロンプトのみである場合)のものは先述の定義には該当しないため著作物ではないとされるのが原則だと思いますが、プロンプトがアイデアを超えた創作的寄与といえるほどのものであったり、AI生成物を人間が加工するといった創作活動(創作的な表現を施す)が行われた場合に、その創作活動に基づいて著作物であると判断される場合もあると考えられます。
しかし、人間が作れば自動的に著作物になるわけではありません。
人間が作ったものであっても、先述のとおり「創作性」がなければ著作物にはなりません。
AI生成物を人間が加工したものであっても、その加工内容に創作性がなければ同様です
ありふれた表現は創作性がない
創作性のない典型例として、まずありふれた表現が挙げられます。
例えば、結婚式の招待状に使われる「ご結婚おめでとうございます」という定型文は、誰が書いてもほぼ同じになるため、創作性はないと評価されやすいです。
また、下記画像は、人間である筆者が、持ちうる最大限の能力により丁寧に描いた「笑顔」という作品ですが、これは非常にありふれた表現であるため、著作物ではありません。

関連して、よく「トレス(トレース)は著作権侵害だ」という意見も目にしますが、既存の著作物の一部をトレスしたとしても、そのトレスした箇所がありふれた表現である場合、つまりそもそも創作性がない部分であれば、「複製」や「翻案」の侵害に関する判断基準である「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」ものではないため、複製権や翻案権を侵害していないため基本的に著作権侵害ではないとされています。
(参考)トレパク指摘は要注意!知っておくべき著作権侵害の境界線
上記作品「笑顔」を精巧にトレスしても、作品全体に創作性がないため、著作権侵害にはなりません
つまり、重要なのは「もとの表現に創作性があるかどうか」であり、トレス行為自体が直ちに著作権問題を引き起こすわけではないという点です。
著作物かどうかの鍵は創作性
このように、著作物かどうかを決める本質的な基準の1つは「創作性があるかどうか」であり、人間が関与していれば著作物になるというわけではなく、ありふれた表現や基本的な図形、また著作物の定義の一部である「思想又は感情」ではない単純なデータは著作物として保護されないことがあります。
また既存の表現を利用する場合も、元の表現に創作性がなければ、著作権の問題はそもそも生じないのです。
AI創作物の著作権問題を考える際にも、「人間が作ったものだから保護すべき」と単純に考えるのではなく、法により保護されるものである「著作物」の定義を十分に理解したうえで「創作性はどこにあるのか」という視点が不可欠です。