著作物ではないけど著作物?!フォントの著作権

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文字を表現する上で必要不可欠な”フォント”。
印刷物などで目にすることはもちろん、フォントをデジタルデータ化したものはパソコンやスマホなどのコンピュータにはほぼ必ずインストールされているものであり、いまご覧になっているこの記事の文章も、なんらかのフォント(見ている環境によって異なりますが、いわゆる”ゴシック系”の書体だと思います。)によって表示されています。

このように特に意識していなくても利用しているフォントですが、4月10日が「フォントの日」ということで、それを前にフォントや書体の著作権を考えてみようと思います。

余談ですが、4月10日を記念日としているものは、一般社団法人 日本記念日協会が認定しているものだけでも「ほうとうの日」「フォトの日」「社長の日」など計24もあるようです。
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そもそもフォントとは?

明鏡国語辞典 第二版によれば、「フォント」とは

コンピューターで、画面に表示したり印刷したりする場合の文字の形。書体。

ということで、コンピュータ用の文字の形ということになりますが、文字そのもののデザインである「タイプフェイス」と、太字(Bold)や斜体(Italic)などの「スタイル」を含めた概念のようです。

タイプフェイス(タイプフェース、書体)とは、文字を書き表す際の特徴や傾向などの様式・体裁のことを言い、漢字では「明朝体」「宋朝体」「隷書体」「行書体」など、アルファベットなどの欧文では「ゴシック」「イタリック」「ローマン」などの基本的なものから、かなり個性的なものまで様々な書体が存在します。

さらにそのタイプフェイスを構成するものとして「字体」があり、字体とは文字の形そのものであり、他の文字と識別できる特徴的な形であるとされています。

つまり、「フォント」「書体」「字体」は厳密には異なるものではありますが、書体のことをフォントと言うような場合も多く、日常的にはその境界は曖昧なものかもしれません。

しかし、著作権法から考えると、「フォント」「書体」「字体」は区別する必要があります

「フォントデータ」「フォントファイル」と呼ばれるものもありますが、この記事ではこれらのデジタルデータを総称して「フォント」と呼ぶことにします。

字体とタイプフェイス(書体)は著作物ではない

文字の形そのものである字体と、それが特定の様式や傾向によって形成されたタイプフェイス(書体)は、著作物ではないと考えられています。

字体とは大昔から情報伝達のために用いられてきたものであり、”「言語の著作物」を創作する手段として、万人の共有財産とされるべきもの”(「装飾文字「趣」事件」 大阪地判平成11年9月21日)であるため、著作権法によって特定の者に権利を専有させることになじまないためです。

その字体を基に形成されたタイプフェイスについても、「文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受ける」(「ゴナ書体事件」最裁平成12年9月7日)ものであり、従来から使われてきた書体と比べて顕著な特徴を有するなどの独創性および美的特性を備えているものでない限り、著作物に当たるということはできない、とされています。

例えば[図1]の文字はほぼ全ての方がアルファベットの”T”(ティー)であることを識別できると思いますが、それは”T”という文字本来の形を基に(依拠して)作られているからであり、よってそれを著作物として保護することはできないと判断されるようです。

図1

デザイン書体も著作物ではない

では、[図1]のような既存のフォントをそのまま利用するのではなく、デザイナーが独自に作成したフォントやタイプフェイスであればどうでしょうか?

図2:原告と被告それぞれの標章(最高裁判所サイトから引用 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=13816)

[図2]は著名な裁判である「「Asahi」ロゴマーク事件(東京高裁平成8年1月25日判決)」で争われた原告と被告の標章です。

原告(控訴人)標章は、既存のフォントをそのまま用いたものではなく、デザイナーがこのロゴのために作成したタイプフェイスであり、被告(被控訴人)標章と比べて「A」「s」「a」の各文字が似ているようにも感じられますが、この場合でも、文字とは情報伝達のためのものであり、またこのロゴの文字もデザイン的な工夫が凝らされたものではあるが、美術の著作物と同じくらいの美的創作性が感じられるものでないため、著作物と認めることはできない、と判断されました。

著作物とは認められない以上、著作権法で保護されるものではないため、原告が求めていた、被告による複製の差止は認められませんでした。

ゴルフシャフトのデザインが争われた裁判においても、[図3]のような文字のデザインは

既存のフォントを利用した上で,「T」の横字画部を右に長く鋭角に伸ばしたものであるところ,文字として可読であるという機能を維持しつつデザインするに当たって,文字の一字画のみを当該文字及び他の文字の字画を妨げない範囲で伸ばすことは一般によく行われる表現であること,文字の一字画を伸ばした先を単に鋭角とすることも,平凡であることからすれば,この表現が個性的なものとは認められない。
知財高判平成28年12月21日判決文より引用 )

よくある平凡な表現であるとして、著作物性が否定されています。

図3:原告シャフトデザイン (最高裁判所サイトから引用 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=86138)

他の同様の裁判においても著作物性が否定されるケースがほとんどであり、このようなロゴ(デザイン)で著作権を主張することは難しいのではないかと思われます。

もっとも、かなり凝ったデザインの書体が存在するのも事実で、それらについて一律”美的創作性”という高いハードルを求めるのもどうかなぁと個人的には思います。書体、そして書体を創作する人を保護する仕組みがあっても良いのではないかと考えます。

フォントは著作物である

一般的には書体、字体は著作物ではないと判断されることになるのですが、その一方で、書体をデジタル化してコンピュータなどで表示・印刷などできるように作成された「フォント」についてはどうでしょうか。

実は、フォントは著作物であるとみなされ、著作権法により保護される場合があります。

モリサワ(原告)のフォントを無断で複製して(海賊版)、自社が販売するMacにインストールしていた業者(被告)が訴えられた裁判(大阪地判平成16年5月13日)において、裁判所は被告による著作権侵害を認め、約8000万円の損害賠償などを命じました。

判決ではフォントが著作物であることを明示はしていませんが、裁判所の判断においても原告が主張する「フォントプログラム」という言葉を使っていますので、フォントは「プログラムの著作物」という扱いであると推認できます。

この裁判では複製防止機能を解除したもの、つまり海賊版をコピーしていた事案ですが、この複製防止機能自体はプログラムですし、対象となったフォントはインストール時に2個のファイルを生成するものであったため、単純なデータファイルとは言えず、プログラムと解釈することは理に適っている点はあると思います。

ただ、フォントのインストーラーはともかく、フォント自体はデータであるため、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10の2)という”プログラム”の定義からすると、一律「フォント=プログラム」とすることに若干疑問もあります。
同様に「データベースの著作物(著作権法2条1項10の3、12条の2)」とするのもスッキリしないような考えもあり、書体は著作物ではないのにそれがデータ化されると著作物だとする法的な根拠が何なのかは気になります。

つまり、著作権法で定められている方法(フォントのファイルを複製したりネットにアップするなど)で利用する場合には、著作権者の許諾が必要となります。

商標・意匠などは別問題

字体や書体には著作権が認められないとしても、その内容によっては他の権利に抵触するおそれがあります。

たとえ一般的なフォントで作成したロゴであっても、それが商標登録、意匠登録されている場合はこれらの権利の侵害となるためです。

利用規約には注意

フォントをフォントとして文字表示のために使うような、複製や公衆送信など上記著作権法に基づく利用ではない場合は、そもそも著作権が及ばないわけですから、自由に利用できることが原則です。

ただし、フォントを提供する者によって利用条件が指定されている場合もあります。先述のモリサワフォントであったり、その他有償フォントであれば、大抵のものに利用規約が定められていると思います。

これは、フォントという商品を販売する側と利用する側の間の契約であるため、フォントが著作物であろうが無かろうが関係ありません。

例えば、よく利用されるモリサワのフォントですが、このフォントを利用してロゴを作ることは可能ですが、作成したロゴを商標登録することはできません(参照: モリサワフォントの商業利用に関して
家電量販店などでもよく見かけるDynaFont(ダイナフォント)も、商標登録する際には別途許諾が必要ですし、スマホアプリやゲームで利用する場合も別途許諾が必要です。
(参照:DynaFont(ダイナフォント)使用許諾範囲について

また、先述のフォントに関する裁判例では特に言及なく「フォントは著作物である」という前提での判決となっていますが、仮にフォントが著作物ではない(つまり著作権法では保護されない)としても、そのフォントを入手する際に同意した条件(=利用規約)により複製などが禁止されていれば、複製行為について著作権ではなく契約違反や不法行為(民法709条)として損害賠償などが請求されるおそれがあります。

利用規約やライセンスをしっかりと確認し、正しくフォントを利用するようにしましょう。

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