業種を問わず多くの企業において、自社が製造販売する商品の制作の一部を他社に委託、いわゆる外注するケースは多いと思います。
特に商品パッケージデザインなど、デザイン制作に関する作業を専門のデザイン会社などに委託することは少なくないと思いますが、その外注先のデザイン会社が制作したものが他者の著作権を侵害していた場合、どのようになるのでしょうか?
最近でも、外注先企業(受託者)の著作権侵害について、外注元(発注者)が責任を負うと判断された裁判例がありましたのでご紹介いたします。
事件の概要
原告はイラストレーターで、平成25年5月に、自身が描いたパンダのイラスト(原告イラスト)を表示した手ぬぐいの写真をブログに掲載していました。
被告は2社あり、どちらも加工食品の製造販売を行う会社ですが、役員が共通している関連会社という関係です。
平成29年11月から平成30年9月頃まで、この被告会社のうちの1社(A社)が製造した焼菓子(被告商品)を、もう一方の会社(B社)や他の小売店に販売していました。
(以下この2社をまとめて「被告ら」と表記します。)
この被告商品のパッケージに描かれたパンダのイラストが、原告イラストに酷似していたために、原告イラストレーターが提訴したものです。
なお、この被告商品のパッケージデザインは、A社が別のデザイン会社(C社)に委託して制作されたもので、被告となっているA社とB社が制作したものではありません。
著作権侵害は認められる
こちらが実際の原告イラストと被告イラストです。
上記イラストを見てもわかるとおり、実際とても良く似たイラストです。
判決においても、他の著作権侵害裁判に見られるような詳細な検討は行われていませんが、
2頭のパンダの姿勢、表情、大きさの比などを含めた構成が類似しており、表現上の本質的な特徴が同一である。
と判断され、その同一性の程度が非常に高いことから、被告イラストは原告イラストを元にして描かれたものと推認することができるとされています。
つまり、原告イラストと被告イラストは多少違う箇所はあるにせよ、実質的にほとんど同じイラストであるのだから、被告商品を製造するという行為は、原告イラストを複製することと同じであるため、原告の複製権(著作権法21条。以下著作権法を単に「法」と表記します。)を侵害しているものと判断されました。
同様に、被告商品を販売するという行為は、原告イラストの譲渡にも該当するため、原告の譲渡権(法26条の2)も侵害するものとされました。
また、被告商品には原告の名前が表示されていなかったことや、原告に無断でイラストの一部が変更されているということから、著作権侵害だけでなく、原告の氏名表示権(法19条1項)と同一性保持権(法20条1項)という著作者人格権の侵害も認められています。
イラストを制作したのは他の会社だが・・・?
このように著作権侵害が認められるのは、上記イラストの類似性を考えても妥当な判断であると感じられます。
問題は、この被告商品に描かれている被告イラストは、実際には被告らの外注先であるC社が制作したものである、ということです。
そのため、原告が主張した被告らの過失についても、被告らは
被告商品のパッケージ等は外注業者である補助参加人(=デザインをしたC社)が制作したものであり、外注業者の制作に係るデザインについて、被告らが全てを管理することは事実上困難である。
として争っていました。
今回のケースの場合、発注元であるA社が勝つことで自身の行為(パッケージデザイン制作)に著作権侵害がなかったと認められるという大きなメリットがあるため、C社が補助参加したものと考えられます。
しかし、裁判所は以下のように判断し、被告らの主張を認めませんでした。
被告らは、(中略)、業として、被告商品を販売していたのであるから、その製造を第三者に委託していたとしても、補助参加人等に対して被告イラストの作成過程を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当である。
(中略)
被告らが上記のような確認をしていれば、著作権及び著作者人格権の侵害を回避することは十分に可能であったと考えられる。にもかかわらず、被告らは、上記のような確認を怠ったものであるから、上記の注意義務違反が認められる。
被告らは、業として商品を製造している以上、製造を他社に委託していたとしても、他人のイラストに依拠していないかといった作成過程を確認するなどの注意を払う義務を負っており、被告らはその確認をしていないのだから注意義務違反であり、著作権と著作者人格権の侵害について過失が認められると判断されました。
このように原告に対する被告らの著作権侵害が認められたため、その他の事情により算出された損害額(42万3260円)の支払いが被告らに命じられました。
外注先に投げっぱなしはやめよう
今回の裁判では、発注者の注意義務違反が認められたため、受注者による著作権侵害に端を発した事件であっても、発注者側が損害賠償責任を負うことになりました。
今回被告となった会社のように、製造販売を主とするメーカーは、商品を製造することはできても、パッケージなどのデザイン制作については専門外であるとして、外部のデザイン会社などに委託、つまり外注するケースは多いと思います。
メーカー以外でも、例えばホームページ制作を外注している会社も多いと思います。
その外注先が制作したパッケージやホームページなどのデザインに、著作権侵害が紛れている可能性もゼロではありませんが、そのデザインを検証せずに利用してしまうと、今回の裁判のように注意義務違反とされてしまうリスクがあります。
デザイン会社が作成したデザインであっても、自社名義で利用するのであれば、そのデザインと作成過程についてもしっかりと確認する必要があるということですね。
外注先の過失は契約でカバー
なお、今回の裁判では、被告、つまり訴えられたのはA社とB社であるため、先述の損害額を支払う義務があるのもA社とB社です。
では、今回の裁判の元凶となった行為の当事者であるC社は、何のペナルティも負わないで済むのか?というと、そんなことはありません。
通常考えられるのは、民法709条に基づき、C社の行為が不法行為であり、それによって自社の利益が侵害されたとして、A社とB社がC社に対して行う損害賠償請求です。
ただ、ここで賠償すべきは被った損害額までとなるのが通常であるため(民法416条1項)、賠償額も先述の42万3260円+α(遅延損害金)程度となってしまいます。
A社・B社としては、この損害賠償金の負担だけでなく、この商品を販売できなくなっているという大きな損害があるにも関わらず、C社から賠償してもらえるのが上記金額程度では、かなり不十分であるように感じられます。
C社がこの損害を予見できた場合は特別の損害(民法416条2項)まで認められる可能性もありますが、どこまでが特別の損害なのか、そしてC社がその予見可能性を争ってきた場合はなかなか面倒です。
そのため、発注元としては、外注先の不法行為に対して自社の損害の賠償を請求できるように、賠償の範囲などについて契約で定めておくことは有効です。
また、外注先が納品物デザインについて適切な権利を有していることを保証させることも重要です。
口約束だけでデザイン制作を依頼するのではなく、しっかりと契約書を作成することは自社の利益保護にもつながりますので、業務を委託する際はしっかりと契約を締結しておきたいですね。