近年、好きなアーティストの曲の歌詞を基に漫画を描く、いわゆる「うた漫画」というものが流行っています。
歌詞や曲についての公式なイメージがMV(ミュージックビデオ)であるならば、この「うた漫画」は、リスナーが感じたものを可視化した、非公式なイメージ映像ですね。
ですが、非公式とは言っても、なかなかクオリティの高い漫画も多く、より一層共感しやすく、またより一層曲を好きになったという方も多いのではないでしょうか。
このうた漫画、いま大人気の西野カナさんの曲を漫画化したものが多いようですが、歌詞の内容を基に漫画を作成し、さらにその漫画の中には実際の歌詞も描かれています。
ということは、これは歌詞を使用していることになるのか?
使用ということであれば、歌詞は一般的に著作物ですので、著作権についても考える必要がありそうです。
歌詞を基に漫画を描く、ということ
歌詞から感じた情景や表情などを漫画として描く場合。
これは、ある著作物(=歌詞)を基に、新たな著作物(=漫画)が生み出されていますので、いわゆる「二次創作」に該当します。
二次創作自体は、ニコニコ動画やコミケなどでもおなじみですね。
では、この二次創作は自由に行って良いかというと、、、厳密に言えば無許諾での二次創作は「ダメ」なのです。
著作権には「翻案権」(著作権法第27条)という権利があり、これはいわゆる「改変」を行うことができる権利のことで、例えば小説を映画化するといった場合にも、この翻案権が関わってきます。
歌詞を基に漫画を描くということは、歌詞本来の姿ではなく、漫画という形に姿を変えて、つまり改変して新たな著作物(「二次的著作物」と言います)を創造することになりますので、二次的著作物を作る際は、翻案権を持っている人に翻案(改変)の許諾を得る必要があります。
つまり、翻案について許諾を得ていない場合は、翻案権の侵害ということになってしまいます。
漫画中にも歌詞を掲載する
単に「歌詞を漫画化」といった場合は、主に先述の翻案権の問題となるのですが、多くのうた漫画には、実際の歌詞も記されています。
そして、制作されたうた漫画はSNSや動画サイトにアップされていることから、ネットを通じて誰でもその歌詞を見て、コピーすることができますので、翻案に加えて「複製」(著作権法第21条)と「公衆送信権」(著作権法第23条)も問題となります。
つまり、翻案だけではなく複製と公衆送信についても権利者から許諾を得る必要があるということになります。
権利者は誰なのか?
このように、漫画という形で歌詞の使用を許諾してほしい場合は、翻案権、複製権、公衆送信権についてそれぞれの権利者(※同一の場合もある)から許諾を得る必要があります。
先の例に挙げた、西野カナさんのヒット曲「トリセツ」で漫画を描きたい場合を考えてみます。
この曲の歌詞で漫画を描こうとした場合、歌詞を作った人、つまり作詞者は西野カナさん(※正確には作詞者名義は「KANA NISHINO」)なので、西野さんに許諾を求めれば良いのでしょうか?また、西野さんがOKと言えば大丈夫なのでしょうか?
実は、許可を出せるのは西野さんではありません。
西野さんがブログやテレビで自身の曲のうた漫画を気に入った!と言っても、それは著作権問題がクリアされたということではありません。
調べてみると、「トリセツ」の歌詞についての著作権は、作詞者である西野さんから、日本テレビ音楽株式会社という音楽出版社に譲渡され、その会社から日本音楽著作権協会(JASRAC)に信託譲渡されています。
つまり、歌詞の利用についてはJASRACに申請する必要がある、ということになります。
利用許諾契約と管理外の権利
このように、基本的にはJASRACに対して許諾申請することになるのですが、一部の動画サイトやブログでは、JASRACと利用許諾契約を締結していることにより、JASRACへの申請なしでJASRAC管理曲を使った動画をアップロードしたり、ブログに歌詞を掲載することができます。
(参考:JASRACサイト)
利用許諾契約を締結しているUGCサービスリストの公表について
動画投稿(共有)サイトでの音楽利用
よって、こういった動画サイトやブログでうた漫画を公開する場合は、公衆送信については問題なく行うことができるというわけです。
ただし、翻案については別です。
実は、この「トリセツ」に限らず、JASRACではすべての曲において翻案権については一切管理していません。
よって、翻案については西野さん本人、または音楽出版社に対して許諾を求めることになりますが、具体的には契約内容によって異なります。翻案権も譲渡する契約になっていれば音楽出版社に対して、そうでなければ作詞者本人となります。
よく利用されている日本音楽出版社協会(MPA)の契約書では、著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)の権利も音楽出版社に譲渡する、という内容になっておりますので、翻案権は音楽出版社が保有している可能性が高いです。
でも、実際のところ・・・
長々と説明してきましたが、現在アップされているうた漫画の多くは、これらの権利処理を行っていないのではないでしょうか。
ですが、権利者から公開停止の要請を受けるというケースは少ないものと思われます。
それは、
・著作権侵害は権利者だけが告訴できる(親告罪)
・うた漫画を作ったくらいでは、権利者が被る損失は少なく、不当に権利が侵害されるというケースは少ないと考えられる
・そのため、掲載差止要請や損害賠償を請求するというコストに見合わない
といった理由が考えられます。
このように、無許諾でのうた漫画作成は、厳密に言えば違法といえる行為ではありますが、素晴らしい二次創作物が生まれているのも事実。
権利者に敬意を払って、不当な権利侵害を行わないよう注意しながら創作活動を行ってほしいと思います。