近年、役所や学校などによる著作物の無断利用に対する使用料請求がニュースになっていることが増えている印象があります。
特に、利用したイラストなどの著作物に関して、担当者は「フリー素材」だと考えていたケースが多いようです。
フリー素材の利用に関しては、市区町村などが利用する場合においては、基本的に私企業が利用する場合と大差なく、いわゆる”商用利用”の可否などを中心にフリー素材ごとに判断し対応していくことになります。
一方で、小学校・中学校・高等学校などの学校において利用する場合は、法(著作権法)では特段の規定を置いていることもあって、誤った判断に繋がってしまうリスクが高いといえます。
そのため、イラストなど他者が創作した既存の著作物を学校の活動において利用する場合の注意点について考えてみたいと思います。
他者の著作物利用の原則
まず基本として、他者が創作した著作物を利用する場合の原則はどのようになっているでしょうか。
法による原則としては、著作物を利用することができる権利をもっているのは著作者だけですので、著作者以外の者が利用する場合は、著作者からの許諾を得るか、著作権を譲り受ける必要があります。
例外として、法には許諾なく利用できる場合というがいくつか定められており(権利制限規定)、これに該当する場合は著作権者に無断で著作物を利用することができます。
学校での利用に適用できる権利制限規定の存在
この権利制限規定の1つに、学校での利用において適用できる規定が存在します。
それが「学校その他の教育機関における複製等」(法35条)です。
(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 (省略)
(太字は筆者による)
簡単に言えば、学校の教師と児童・生徒は、授業で利用することを目的にしている場合は、著作権者に無断で著作物を複製(紙に印刷・板書など)、公衆送信(学校サイトへの掲載、生徒へのメール送信など)、公衆送信されるものを公に伝達(ネット上の動画を教室で視聴させるなど)することができる、というものです。
ただし、著作権者の利益を不当に害するような利用は対象外ですし、また営利目的の学校は対象外であるため、学習塾や予備校などはこの規定を適用することはできませんのでご注意ください、
この規定により、授業目的であれば原則として自由に既存著作物をコピーして利用することができ、これは授業を進める上でとても有意義であり、また必要なものであるといえると思います。
また、この規定は教師と児童・生徒の両方が対象ですので、教師が行うコピーや板書などの複製・公衆送信に限らず、児童・生徒が行うコピー、例えば授業での発表のためにインターネットで見つけた画像をコピーして資料を作成する、ということも原則として著作権者に無断で行うことができます。
無断利用できるのは”授業目的”のみ
ただ、この規定の内容を十分に理解せずに、例えば「教師なら自由にコピーすることができる」「学校での利用は無断でOK」というような誤った理解をしてしまうと、法35条が適用されない利用を行ってしまうおそれがあります。
例えば、「学校だより」のようなものを作成する場合、学校という場において教師が作成することが多いかと思いますが、これは法35条で規定されている“その授業の過程における利用に供することを目的とする場合”、つまり「授業目的」には該当しないため、著作物を無断で利用することはできません。
無断で利用した場合は、著作権侵害行為として、使用料や損害賠償の請求対象となるおそれがあります。
そのため、著作権者に無断で利用することができるのは授業目的に限られるという点について十分理解した上で、授業目的ではないと考えられる利用シーンにおいては、しっかり著作権者からの許諾を得た上で利用するようにご注意ください。(後述するような、他の権利制限規定が適用できる場合は除きます)
なお、法35条の規定により授業目的で無断利用できるのは「複製」「公衆送信」「公に伝達」する行為に限られますので、例えば口述権(法24条)の対象となる”先生たちが全校生徒の前で小説を朗読する”といった行為は法35条の対象範囲ではありません。
ただ、この場合は通常非営利目的で行われて生徒は参加費などは支払いませんし、この朗読に対して先生たちに対価は支払われませんので、権利制限規定の一つである「営利を目的としない上演等」(法38条1項)に該当するとして著作権者に無断で行うことはできると考えられます。
フリー素材の規定は要遵守
法としては上記の原則となりますが、もう1点注意が必要なのが、フリー素材の利用規約です。
利用規約の内容は素材配布者によって異なりますが、その中には「個人利用のみ可能」「個人利用以外は有償」「基本的に無償だが20点以上利用する場合は要問い合わせ」などのルールが設けられている場合があります。
法律上は、先述の35条の規定に該当するのであれば、著作権者に無断で利用することができますので、このような利用規約は関係ないと思うかもしれません。
しかし、素材をダウンロードしたり素材サイトに登録するときに利用規約に同意しているのであれば、法律上の問題としてではなく、契約上の問題として利用規約に従う必要があります。
よって、例えば個人利用のみ許可しているフリー素材を学校で授業目的で利用した場合は「法的にはOKだが契約上NG」という状態だといえますので、契約違反として使用料を請求されたり、利用を差し止められる可能性があります。