他人が権利を有する著作物を利用する場合は、その権利者から許諾を得ることが原則ですが、著作権法には例外的に権利者から許諾を得る事無く利用できる場合が定められています(これらは「権利制限規定」と呼ばれます)。
法32条で定められている「引用」もその中の一つで、通常の日本語での意味と同じように、他人の著作物を引いてくることをいいます。
ただし、著作権法上の引用にはルールがあり、どのような方法や目的であっても適法な引用と判断されるのではなく、そのルールに合致していない場合は引用とは認められません。
引用とは認められない、ということは、他の権利制限規定に該当しない限り、著作権法に違反する状態での利用ということになります。
デジタル技術、そしてインターネットの発達により、誰でも容易に他人の著作物に接することができ、そして容易にそれらを利用することができるようになっています。
そんな中で、適法な引用で他人の著作物を利用する場合も増えているかと思いますが、それと同時に、適法ではない引用行為により、引用した側と引用された側でトラブルに発展するケースもあります。
「出所さえ明示すれば引用として自由に利用できる」と思っている人はいませんか?
この記事では、引用の成否について争われた近年(2021〜2023年)の裁判を例に、どのような利用が適法で、どのような利用が違法と判断されるのかを考えてみたいと思います。
引用の基本ルール
裁判例を見る前に、まずは基本的な事項として、そもそも法律ではどのように定められているのかを知っておくことが重要です。
著作権法で引用について定めているのが32条1項です。
著作権法第32条(引用)
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 (略)
これを見ると、以下の条件が定められているのがわかります。
- 引用できるのは、公表された著作物であること
- 公正な慣行に合致するものであること
- (報道、批評、研究その他の)引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること
また、著作権法48条1項1号の規定により、他人の著作物を複製して引用する場合は、その出所を明示する必要があります。
ここで注意が必要なのが、この出所明示の規定は引用の条件ではなく、適法な引用である場合にプラスされて適用されるルールであるということです。
つまり、出所を明示すれば適法な引用である、というのは誤りであることがわかります。
出所を明示しなかったとしてもそれだけで引用が否定されるものではありませんが、違反した場合は著作権法122条の規定により50万円以下の罰金が科されることがあるルールですので、決して軽視してよいものではありません。
以上を踏まえ、これらの3つの条件を満たしていれば適法な引用であると考えることができ、その場合はさらに出所明示を行うことで適法に利用することができるわけです。
明瞭区別性、主従関係(附従性)は?
なお、上記以外の条件として、「引用する側と引用される側を明確に区別すること」(明瞭区別性)と「引用する側が主で、引用される側が従の関係であること」(主従関係、附従性)を条件として挙げている記事や解説を見たことがある方も多いのではと思います。
これらの要件は、法律で規定されているものではなく、最高裁判所の判決(「モンタージュ写真事件」最高裁S55.3.28第三小法廷判決)により示された引用の要件です。
しかし、判決日からわかるとおり、これはとても古い裁判例で、しかも昭和45年制定の現在の著作権法ではなく、明治32年制定の旧著作権法で規定されていた”節録引用”についての判断です。
既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作ト看做サス
第一 (略)
第二 自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト
第三〜第九(略)
本条ノ場合ニ於テハ其ノ出所ヲ明示スルコトヲ要ス
もちろん、古いからといって直ちに否定されるものではなく、現在の著作権法における引用の判断においても十分参照されてきました。
しかし、近年ではこの2つの要件を前面に出さずに、先述の現行著作権法32条の条文に即して判断する裁判例が増えてきています。
それを踏まえて、最近の裁判例を見てみましょう。
スクショ引用を適法と認めた事例
引用に関する直近の裁判例で特徴的なものとして、Twitterでの投稿において、他人のツイートのスクリーンショット(スクショ)を添付することが適法な引用であると認められたものが挙げられると思います。
その1つが、著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求控訴事件(知財高判R4.11.2)です。
この裁判での争点の1つとして、スクショによって元ツイート投稿者のプロフィール画像(原告の写真を元に作成されたもの)が複製され、それを含んだスクショ画像が投稿されたことに対する著作権(送信可能化権)侵害が争われましたが、この控訴審ではスクショにより元ツイートを示すことが「批評の目的上正当な範囲内での利用」であるとしました。
これは、原告の行為を批評するために、元ツイートに手を加えることなくそのまま示す(=スクショ画像を添付する)ことは客観性が担保されているということができ、また問題となったツイートを見た者が、批評しているのは誰の投稿で、どんな内容だったのかを正確に理解することができる(=元ツイートが削除されたり変更されたりしたとしても、批評の対象となるツイートを把握できる)ため、批評の妥当性を検討するために資するといえる、という判断によるものです。
また、原告側は主従関係を満たしていない旨の主張をしましたが、裁判所は以下のように判断しています。
仮に「引用」に該当するために主従関係があることを要すると解したとしても、主従関係の有無は分量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断するべきである
(著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求控訴事件(知財高判R4.11.2)判決文 15頁より引用。太字は筆者によるもの。)
このように、主従関係の有無を重要な要件としておらず、また”仮に”主従関係を要すると理解したとしても、それは分量のみで決まるものではなく、総合的に考慮すべきと判断しています。
- 利用規約はあくまでTwitter社と利用者との約束である
- つまりそれが直ちに”公正な慣行に合致”するか否かの判断で検討されるべきものではない
- Twitterが提供する機能である引用ツイートを利用する場合、元のツイートが削除されたり変更されたりすると、批評の趣旨を正しく把握したり妥当性を検討することができなくなるおそれがある
などの判断から、スクショの添付という引用の方法も公正な慣行に当たり得るというべきとされました。
適法な引用ではないと判断された事例
このようにスクショという形で引用するツイートが適法と判断される場合もありますが、その一方で、適法な引用ではないと判断される事例もあります。
例として、発信者情報開示請求事件(東京地判R4.5.26)を紹介します。
原告が作成してInstagramにアップした動画の冒頭部のスクリーンショットを添付して行われたツイートに関して、裁判所は次のように判断して引用の該当姓を否定しています。
証拠(甲1)によれば、本件記事には「スタッフ4人平均売り上げ100万ないのに大丈夫かな、、、頑張ってほしいけどこの日の売り上げ気になるw」との文章が付されていることが認められる。この文章の趣旨は必ずしも明確とはいえないものの、単にスタッフの人数が4人であることを殊更に指摘することがその趣旨の全部又は一部であるとは考え難い。仮にそのような趣旨であるとしても、その事実の摘示のために本件動画(本件画像部分)を引用する必要性は乏しいといえる。その上、本件画像は本件記事全体の分量の過半を占めており、独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさであるのに対し、上記文章は短文であると共に比較的小さな文字で掲載されている。これらの事情等に照らすと、本件記事における本件動画の引用の方法及び態様は、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできない。また、当該引用が公正な慣行に合致すると見るべき事情もない。
(発信者情報開示請求事件(東京地判R4.5.26)判決文 12頁より引用。太字は筆者によるもの。)
このように、どのようなスクショツイートであっても適法と判断されるものではなく、引用の目的から考えて合理的な範囲であったり、公正な慣行に合致する事情がなければ、適法な引用とは認められないということになります。
この「公正な慣行に合致」しないと考えられる別の例として、批評ではなく誹謗中傷を目的とする引用行為も挙げられます(発信者情報開示請求事件(東京地判R4.3.29))。
しかしながら、本件投稿記事2-2は、本件写真5-1と同5-2を並べて「自撮りと全然違います」というコメントを付したものであり(前記前提事実⑵、認定事実⑼オ)、前記のような本件スレッドの性質や本件スレッドの他の投稿記事の内容を踏まえれば、本件投稿記事2-2は、本件写真5-1を用いて、原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷する趣旨のものというべきである。そして、本件投稿記事2-2のコメント部分はわずか10文字であり、本件写真5-1が相当部分を占めていることを併せて考えれば、本件投稿記事2-2において、本件写真5-1を利用することが「公正な慣行に合致」し「引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということはできず、著作権法32条1項の引用が成立するとはいえない。
(発信者情報開示請求事件(東京地判R4.3.29)判決文 24頁より引用。太字は筆者によるもの。)
さらに、公正な慣行に合致するか否か、そして正当な範囲内か否かを判断する以前の問題で、そもそも引用にはあたらないと判断されるものもあります。
それが、読者の理解を助ける目的で記事に写真を掲載する利用です(発信者情報開示請求事件(大阪地判R3.5.11))。
本件各記事と原告各画像との関係について検討するに,上記認定のとおり,本件各記事において,原告各画像を参照したり,これに言及したりするということがなされていないことから,本件各記事との関係で,原告各画像を利用する何らかの目的があったと認めることはできないし,俳優等の著名人の写真を掲載するにあたり,パブリックドメインに属する写真や本件各投稿者において許諾を取得し得る写真ではなく,原告各画像を掲載しなければならなかったとする事情のようなものも認められない。結局のところ,本件各投稿者は,本件各サイトを閲覧する者を増やす目的で,原告各画像と本件各記事とを共に展示しているにすぎず,何らかの目的で本件各記事の中に原告各画像を採録し,利用するといった関係は存在しないから,本件各記事における原告各画像の利用は,そもそも引用にはあらたないというべきであり,公正な慣行に合致するか否か,その目的上正当な範囲内で行われたか否かを論じる必要はないことになる。
(発信者情報開示請求事件(大阪地判R3.5.11)判決文 16頁から引用。太字は筆者によるもの。)
出所さえ明示しておけば引用であると考える方も一部にいらっしゃるようですが、引用の成否において重要なのはそれではなく、引用する著作物について言及していることが重要であることを理解しておく必要があります。
もちろん、引用する著作物に言及していればどのような利用であっても引用として認められるものではありません。
例えば、ある特定の動画の複数の箇所でスクリーンショット画像(30〜60枚)を作成し、その画像ごとに画像内容を記載し、記事の最後に投稿者の感想や閲覧者のコメントを記載していたブログに対して、引用を認めなかった事例があります(発信者情報開示請求事件(東京地判R3.3.26))。
これらに照らせば,本件各記事には,本件各動画の内容を紹介する面やそれを批評する面がないわけではない。しかしながら,本件各記事において,本件各動画のスクリーンショットの静止画は,1記事当たり相当な枚数であり,量的に本件記事において最も多くを占めるといえるのに対し,投稿者の感想は相当に短い。また,本件各記事の最後に記載された投稿者の感想の内容に照らしても,それらの静止画の枚数は,感想を述べるために必要な枚数を大きく超えるといえるものである。
以上によれば,本件各記事における本件各動画のスクリーンショット静止画の掲載は,仮に引用ということができたとしても,引用の目的との関係で正当な範囲内のものとはいえない。したがって,本件各記事による本件各動画のスクリーンショットの掲載について,著作権法32条1項により適法となることはない。
(発信者情報開示請求事件(東京地判R3.3.26)判決文 7頁から引用。太字は筆者によるもの。)
各スクリーンショット画像には引用する目的があったのかもしれず、事実その画像のシーンに関する感想も記載していおり、それだけ見ると引用の要件を満たしそうにも思えますが、ただその感想の文章が短く、それでいてスクリーンショット画像の枚数がかなり多いことから、正当な範囲ではないとされています。
公正な慣行に合致する、正当な範囲内で引用する
ここで挙げた裁判例は、その多くが発信者情報開示請求であり、著作権侵害の訴訟における前哨戦のようなものであるため、どちらかというと引用とは認めず著作権侵害であるという方向に行きやすい側面はあるのかもしれず、これらの判断が今後の著作権侵害訴訟の中心的な考えになる、ということではないのかもしれません。
しかし、どの裁判例でも、引用とされる行為が「公正な慣行に合致」するか、そして「引用の目的において正当な範囲内」であるかどうかが検討されており、ここで明瞭区別性や附従性を検討基準として明示しているものはないように感じます。
よって、明確に区別できるから大丈夫、分量の差が大きく主従関係があるから大丈夫、ということではなく、法律の条文に立ち返って、その利用が公正な慣行に合致するものといえるか、そして引用の目的に関して正当な範囲内であると言えるか、という点を中心に検討する必要があるのではと考えています。