SNSでは、フォトウェディング、前撮りなどの婚礼関係の写真や家族写真などを中心にした”自身が被写体になっている写真”について、加工を求める投稿が増えているように感じます。
例えば
- 結婚の前撮り写真で、肌の色が気になる
- もっとかっこいい構図にしてほしい
- 写真から動画を作ってほしい
などの理由で、気に入った肌色になるような写真加工だったり、主に生成AIを利用した動画化を求めるような投稿です。
中には、このような依頼に対して応える「加工師」を自称する方もいるようです。
ただ、このような依頼をしたり、依頼を受ける際には、著作権についてもしっかり考えなければなりません。
加工は著作物の翻案に該当する
写真という著作物を加工する行為に関して、著作権法(以下「法」)ではどのように規定されているのでしょうか。
前提として、この記事でテーマにしている「加工する」行為については、フォトウェディングや前撮りなど元の写真が存在した上で、その一部または全部を変えることで作り直す行為です。
それを踏まえると、加工行為については法27条に規定されている「翻案権」に該当すると考えら得ます。
(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
なお「翻案」という言葉は聞き慣れないと思いますが、広辞苑(第七版)では次のように説明されています。
翻案(ほんあん)
前人の行なった事柄の大筋をまね、細かい点を変えて作り直すこと。特に、小説・戯曲などについていう。
写真は「小説・戯曲など」ではありませんので後段には該当しませんが、ただ実際の加工行為を考えますと前段には該当しますので、翻案行為であるといえます。
法27条では「翻案権は著作者が専有する」、つまり翻案権を持っているのは著作者だけということになりますので、著作者ではない者には翻案権がなく、翻案という行為をすることができないわけです。
なお、著作権という権利は、その全部または一部を他人に譲渡することもできますので、著作者から著作権の全部または翻案権を譲り受けた者は、著作権者として翻案権を有します。
著作者人格権の検討も必要
翻案権は著作権の一部ですが、それとは別に、著作者だけが有する「著作者人格権」についても検討が必要です。
著作者人格権は公表権・氏名表示権・同一性保持権の総称ですが、これらの権利のうち、著作物の加工に関するのは「同一性保持権」です。
この同一性保持権とは、法20条1項で定められており、著作者の意に反する改変を受けない権利です。
写真の著作権者は被写体ではない場合が多い
では、写真の著作者は誰でしょうか。
これは原則として写真を撮影した人になります。(例外として職務著作に該当する場合は、撮影者を雇用している企業などになります)
つまり、自撮り写真である場合を除き、写真の著作者は写真に写っている人(=被写体)ではなく、写真を撮影した人なのです。
この記事でテーマにしている前撮り写真や家族写真などのような場合は、プロのカメラマンが撮影しているケースが多いと思いますので、写真の著作者はそのカメラマン(または雇用主である企業)ということになります。
また、プロが撮影した場合は特に、写真の著作権を被写体に譲渡するケースは非常に希ですので、被写体が著作権者となっていることはほぼありません。
つまり、写真の被写体だったとしても、その写真に対する著作権は有していませんので、著作者の許諾を得ること無く、法に規定されている利用(翻案だけでなく、複製、ネット掲載なども含みます)をすることは、著作権の侵害行為ということになります。
なお、写真スタジオで撮影した写真を年賀状で使う場合について別の記事で書いていますが、こちらも同様に被写体が著作権を持っているわけではないため、注意が必要です。
所有権と著作権の違い
自分が写っている写真だから、カメラマンから撮影データをもらったから、という理由で写真を自由に取り扱うことができる、と思ってしまうかもしれません。
しかし、被写体だからといって自動的にその写真に対する著作権を有するわけではありませんし、撮影データやプリントアウトされた写真をもらったとしても、その撮影データが記録されたDVD-RやUSBメモリの「所有権」は被写体側に移転しますが、著作権が移転するものではありません。
所有権と著作権はまったく別の権利であるという点には注意が必要です。
著作権侵害だという認識をもつことが大切
このように、自分が写っている写真だとしても、写真を撮影したカメラマンなどの許可をもらわずにSNSにアップして加工を求める行為というのは、実際に加工を行った者は著作権(翻案権)の侵害に加えて著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるおそれがあります。
残念ながら、中にはプロカメラマンやデザイナーを自称するアカウントがこのような”加工師”作業をやっている事例も見受けられます…
これは有償か無償かはまったく関係ありません。”著作者の許可が無いのに加工した”という点が重要なのです。
また、加工を求めるためにSNSに投稿した者も、事前にSNS投稿の許可をもらっていないのであれば公衆送信権の侵害となります。
仮にSNS投稿の許可をもらっていたとしても、加工を求めることが目的の投稿であれば、そんな目的では許可していないと著作者側から主張されトラブルになるリスクも決して無視できません。
自分が写っている写真なら自由に利用できると誤解しやすいかもしれませんが、実はそれが著作権侵害の可能性がある、ということを知っておくことで、不要なトラブルの発生を抑えられます。