パクリ問題から考えるネットメディアライターのための「引用」のキホン

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この1週間ほど、専門家が監修しておらず正確性に問題があったり、他のサイトからの無断転用記事を掲載していたとして、大手企業が運営していたキュレーションサイトがすべての記事を非公開としたというニュースが話題になっています。

(参考)DeNAの健康情報サイト「WELQ」が全記事を非公開に、無責任な垂れ流しに批判集まる (Nikkei BP)

記事の正確性という点はもちろん、他のサイトやブログから記事を無断転用し、それらを組み合わせて記事を量産していたばかりか、運営元がその違法行為を推奨していたと受け取れるような情報も伝わっており、まったく許されるものではありません

また、以前からいわゆる”まとめサイト””まとめブログ”による無断転載が問題となっています。

そこで、今回の一連の騒動で改めて注目されている著作権法に定める「引用」について、特にブログやウェブメディアにおける引用という視点で考えてみたいと思います。

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そもそも引用とは

引用(いんよう)とは、著作権法第32条で定められている、著作権者の権利の一部を制限する”制限規定”の1つとして規定されています。

ブログ記事でも小説でも写真でも、著作物を複製や公衆送信、上映や口述などによって利用する場合は、原則として著作権者の許諾が必要です。
しかし、例えば、ある論文について批判的な記事を書くために論文の一部を示す必要がある場合、必ずその論文の著作権者の許諾が必要だとするとこの権利者は自身に不利益な記事が公開されることを避けるために論文の利用を許諾しないことも考えられ、これでは正当な表現活動に支障が出てしまいます。

そのため、一定のルールに沿っていれば、著作権者の許諾がなくても著作物を利用できるようになっています。それがこの「引用」です。

引用と認められるための条件

このように権利者の許諾なく著作物を利用できるためには、以下の条件すべてに当てはまる必要があります

  • 公表されている著作物であること(法32条)
  • 公正な慣行に合致するものであること(法32条)
  • 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲で行われるものであること(法32条)
  • 複製の場合は著作者名や題名などを明らかにすること(出所の明示)(法48条)
  • 引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識できること(*)
  • 引用する部分が「」で引用される部分が「」の関係であること(*)

著作権法による規定だけでなく、*印の項目のように過去の裁判(「パロディ事件」最判昭和55年3月28日)において示された基準もあります。

引用元の文章を一言一句そのままではなくその趣旨に忠実に要約して引用することも可能です。(東京地判平成10年10月30日)

これらの条件に1つでも合致しなければ引用とは認められず、著作権者の許諾なしで利用することはできません。

今回のWELQなどの記事は、これらの要件をほぼすべて満たさないため引用とは認められず、よって著作権(複製権、公衆送信権、翻案権、氏名表示権、同一性保持権)侵害だと考えられます。

写真・画像を使うのも”パクリ”なのか?

文章としては上記要件を満たせば「引用」として他人の著作物を利用することができますし、満たさなければ違法状態であると言えます。

では、文章以外のものではどうでしょうか?

よくあるトラブルとしては「写真や画像の転用」が挙げられます。

ブログやキュレーションメディアなど媒体を問わず多くの記事では、記事の補足のためだったり、イメージの連想や読みやすさなどを考慮して、記事中に写真やイラストなどの画像を挿入することが一般的です。

その際に使用する画像として、他のサイトやブログにある画像を利用した場合もあると思いますが、原則的には引用の要件を満たしていれば利用することは可能です。

ただし、利用手段によって判断が分かれることになります。

自己のブログやメディアに複製する場合

画像をPCに保存してからブログなどにアップロードする場合など、「複製」や「公衆送信」といった行為を含む場合は、無許諾であっても引用の要件を満たしていれば利用できます

WordPressで画像をアップロードする

WordPressで画像をアップロードする

ただし、画像そのものに言及する場合は良いのですが、単なるイメージやアイキャッチとして使う場合は「公正な慣行で正当な範囲」なのかが微妙だと思われるため、引用の要件を満たしていないと判断されることも考えられます。

複製せず直リンクする場合

意外かも知れませんが、この場合は引用の要件を満たさなくても原則的には利用可能です。

WordPressで画像URLによる画像指定

WordPressで画像URLによる画像指定

それはなぜか?

繰り返しになりますが、引用とはそもそも複製権や公衆送信権、翻案権といった著作権者が持っている権利を制限し、権利者が許諾しなくても他人が利用できるようにするものです。

しかし、画像への直リンクの場合、複製も翻案もしておらず(画像データは元のウェブサーバー上にあるだけ)、また公衆送信しているのは元の画像データが存在するウェブサーバーであるため、実は著作権の支分権を1つも侵害していません

これはYouTubeやニコニコ動画のコンテンツを埋め込んで表示する場合も同様で、実際に動画を配信しているのは埋め込んだブログ等ではなくYouTube等であるため、複製権や公衆送信権の侵害にはなりません。(大阪地判平成25年6月20日など)

よって、引用の要件を満たしても満たさなくても、そもそも著作権者の権利が及ばない利用方法であるため、許諾なしで利用することができるのです。

ただし、著作者の権利を侵害する方法や状態での利用は著作者人格権の侵害となり得ますので注意が必要です。

具体的には、自分の著作物であるかのような表示をしたり(氏名表示権)、一部をトリミングして表示させること(同一性保持権)、あるいは著作者の名誉声望を害する方法での利用(著作権法113条7項)により著作者の人格を傷つけるような場合です。

不法行為となる可能性は残る

このように、いわゆる”パクリ”と呼ばれる行為であっても、法的には問題のないケースは少なくありません。

ただし、著作権としては問題が無い場合であっても、その利用形態によっては不法行為責任(民法709条)を負うことが考えられます

不正に自らの利益を得る目的での利用や、リンク先(画像が保存されているサーバー)に損害を与える目的である場合は、損害賠償を請求されるかもしれません。

(2016/12/07 9:30追記)
また、人物が写っている写真の場合、その人物あるいは所属する事務所との契約により使用範囲が定められている場合もあり、そういった画像を転用(引用を含む)した場合は画像の権利元などから損害賠償を請求される可能性は高いです。

例えば、私たち行政書士が加盟する日本行政書士会連合会(日行連)が毎年作成しているポスターがありますが、このポスターの画像は日行連と各単位会(東京都行政書士会など)のサイトでしか利用できません。(ポスターの写真を自分のブログにアップしている行政書士も見かけたことがありますが、、、ダメですね。)

”引用禁止”は微妙

ところで、引用の要件に該当すれば著作権者の許諾がなくても著作物を利用できるのですが、それでもどうしても自身の著作物を引用してほしくない、と考える方もいらっしゃると思います。

そのため、ブログなどで「引用禁止」と明示しておけば良いと思うかもしれませんが、実際のところ、引用を禁止できるとは限りません

引用とは法律によって認められている行為であり、それを禁止するには契約などにより当事者同士で合意している必要があります。
たとえブログに書いていたとしても、それをもって引用禁止の契約が成立したと言えるか否かは微妙です。

(2016/12/07 09:30追記)
クリックオン契約(※)により引用禁止契約が有効に成立していると推定される場合でも、引用規定は強行法規(個別の契約よりも強い)ではないとされているため一律無効とはなりませんが、ただわざわざ制限規定を設けていることを考えると、引用禁止契約が有効だと認められるのは限定的だと考えられています。
(「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 契約・利用ワーキングチーム検討結果報告」(平成18年7月)より)

※クリックオン契約:記事を見せる前に利用規約などを表示し、「同意」ボタンを押して明示的に同意することで締結される契約。会員登録やアプリのインストール画面などでよく使われている契約方法です。
民法第1条第3項でも「権利の濫用は、これを許さない。」と謳われています。法律上認められている”引用できる権利”を一方的に無効とする権利行使は、濫用と言われてしまうこともあるのではないでしょうか。

ただ、実際に引用した場合にトラブルに発展する危険も高いため、引用禁止と明示しているブログからの引用は避けるか、あるいは正面突破で許諾をもらいにいくことが無難かもしれません。

まとめ

引用の要件を満たしていたり、不正目的ではなく画像に直リンクすることで、文章の一部や画像を自身のブログなどで利用することはできます。

しかし、そうでないのであれば、重大な権利侵害です。

DeNAなどによる今回の問題は、運営元の遵法意識の欠如だけでなく、外注ライターとして運営元の違法行為を担っていた者にも大きな問題があると言えます。

他のブログやメディアの記事・写真を利用するには、原則として許諾が必要。
例外として、引用の要件を満たすのであれば、無許諾で利用可能。

これはメディア運営元もライターもブロガーも十分に留意する必要があります。

なお、引用などは、権利者にとっては不本意な利用であるかもしれませんし、特に画像が勝手に利用されていると気持ち悪いということはあると思いますが、しかしそれだけで不法行為といえるかは正直微妙です。

不法行為性や経済的損失が希少なのであれば、合法だとされる利用は容認することも著作権法の目的である”文化の発展に寄与”(著作権法第1条より抜粋)に繋がるという視点も重要だと考えています。

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