JASRAC管理されていない曲は自由に利用できる、という誤解

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SNS上では、「JASRAC対策のためにJASRACで管理されていないインディーズ系アーティストの曲を使おう」というような投稿を目にすることがあります。

おそらくJASRACが管理していない楽曲であれば使用料を払わなくてもよいと考えているのかもしれませんが、これは正しいとはいえません
その理由を、著作権法の規定、としてJASRACの役割から考えてみましょう。

(注)この記事ではJASRACが管理する楽曲について記していますが、NexToneなど他の著作権等管理事業者が管理するものでも基本的に同様です

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JASRACにお金を払いたくないから?

そもそもなぜ”JASRAC対策”のような主張が出てくるのかについて考えてみますと、どうやら「JASRACに利用料を払いたくないから」という理由が根底にあるように感じます。

そしてその理由に繋がってくるのが、単に経費削減のような意味だけでなく、「JASRACに支払ったお金がアーティストに支払われない」「分配が不透明だ」という認識のようです。

これは本当によく見かける誤解ですが、アーティストに支払われない、なんていうことはもちろん誤りで、JASRACは徴収した利用料をしっかり権利者に支払っています
そして使用料区分ごとに定められている率に応じて分配額から控除されることで、権利者は徴収・支払いの手数料をJASRACに支払っています。
また後述するとおり、使用料も手数料率も予め公表されていますので、不透明な分配ということもありません。

利用するためには権利者の許諾を得る必要がある

では仮にJASRACに利用料を支払わずにJASRACが管理する音楽を利用した場合はどのようになるでしょうか。

これは一部の例外に該当する場合を除き、原則として著作権(演奏権や公衆送信権)の侵害になると考えられます。

例外としては、法38条に規定されている、非営利目的で・鑑賞が無償で・演者は無報酬での演奏などが該当します。

演奏権とは、公衆に直接聞かせることを目的として演奏する権利で、これは著作者が専有しています(法22条)。なお、演奏権の対象は生演奏に限らず、録音された音を再生することも該当します(法2条7項)。

また公衆送信権は、公衆に直接に受信されることを目的として有線または無線での通信により送信する権利ですが、簡単に言えばインターネットを通じた送信全般が該当します(法23条1項)。そしてこれも著作者が専有しています。

そしてこの「専有している」ということは、つまり著作者しか演奏・ネット配信できないということを意味しています

だからこそ、著作者ではない者が演奏したりネット配信したりする場合は、著作者からその許諾を得なければなりません。これが法による原則です。

そして、JASRACが管理している楽曲の場合、著作者(=作詞者・作曲者)からJASRACに直接に、またはまず音楽出版社に譲渡された上で、その音楽出版社からJASRACに対して著作権が譲渡されることにより、結果的にJASRACが権利者(著作権者)になっています。

これにより、JASRACに利用料を支払うことで、権利者であるJASRACから演奏などが許諾されますので、著作者ではない者であっても演奏などを行うことができるようになっています。

JASRACが管理していなければ権利者と交渉が必要な場合も

先述のとおり、演奏したりネット配信したりするためには、そもそも著作者(著作権が譲渡されている場合は著作権者)からの許諾が必要、というのが法による原則です。

これはつまり、JASRACが管理していない曲であれば、著作者を調べて、著作権が譲渡されていないかを確認し、譲渡されていなければ著作者と、譲渡されていれば譲渡先である現在の著作権者を探し出した上で

・楽曲を利用しても良いか?

・利用に対して対価の支払いは必要か?

・対価の支払いが必要である場合、その金額と支払い方法は?

・利用に対して上記以外の条件はあるか?

少なくとも上記4点について著作者(または著作権者)と交渉し、対応する必要があるのです

著作者が利用を許可しなかった場合はもちろん、対価の額について折り合いが付かなかったり、利用条件を受け入れることができなかったような場合は、そもそも楽曲を利用することができません

そしてこの交渉作業を、利用するすべての楽曲に対して行う必要があります。

これは楽曲を利用する側にとっては、とても大きな負担です。

非JASRAC管理曲には、フリー音源など、あらかじめ利用条件が公開されているものもあり、このような楽曲であればJASRAC管理曲よりも手続きが簡単(あるいは不要)である場合もあります。

JASRAC管理曲なら原則利用可能

これに対して、JASRACが管理している楽曲であれば、JASRACに利用する楽曲を申請して、請求される利用料金を支払うことで、原則として利用することができるようになります。

これは、著作権等管理事業法16条により、JASRACなどの著作権等管理事業者は、正当な理由がない限り著作物の利用の許諾を拒んではならないとされているためです。

また、利用料金についても、使用料規程を定めて文化庁長官に届け出た上で(著作権等管理事業法13条)、その内容を公示しなければなりません(著作権等管理事業法15条)。
そのため、JASRACのサイトを見れば、利用料金がいくらになるのかを事前に把握することができます

これにより、利用の許諾を得るための手続きは、非JASRAC管理曲と比べてかなり簡単になります。

なお、YouTubeやTikTokのように、予めJASRACと利用許諾契約を締結しているサービスもありますので、このようなサービス上ではJASRAC管理曲であれば特別な手続きをおこなうことなく利用することができます。(ただし原盤権には注意)

また、例えば所有するCDを店舗のBGMとして利用する場合、店舗面積が500㎡までであれば利用料は年間6,000円(※税別、記事執筆時点での使用料)ですので、店舗の経費としては決して高額なものではありません。

このように、簡単な手続きと明確な使用料により、利用のためのハードルを下げているのがJASRACの大切な役割なのです。

違法状態にならないよう常に許諾を受けよう

このように、JASRACが管理していなければ自由に利用できるのではなく、一般的に利用までの手間や費用が増える、またはそもそも利用できない場合がある、ということになります。

音楽著作物には原則として利用権を専有する著作権者が存在する、ということを忘れずに、適切に許諾を得て利用するようにしましょう。

なお、この記事では著作権についてのみ検討していますが、利用態様によっては音源にかかる著作隣接権(いわゆる原盤権)についても検討し対応する必要がありますので注意してください。

音楽利用の必須知識!著作権だけど著作権ではない、著作隣接権とは?

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