先日、フリー音楽素材サイトで公開されていた楽曲を自身のネタに利用していた芸人に対し、そのフリー音楽素材サイトが著作権侵害だと申し立てたことが明らかになりました。
こちらの件はすでに協議の上で解決されたようですが、「フリー」を「何でも自由」であると解釈してしまい、誤った利用をしているケースは少なくないものと思われます。
なぜ著作権侵害なのか
まず、今回の件がなぜ著作権侵害となるのかを考えてみます。
原則的には、BGMとしての利用であっても、音源を流す(再生する)ことができるのは著作権者だけ(著作権法22条。演奏権)であり、放送で使ったりネットで配信できるのも著作権者だけ(法23条。公衆送信権)です。
つまり、著作権者以外の者が、音源をBGMとして利用するには、著作権者から「利用して良いですよ」という許諾を得る必要があります。
さらに、音源をそのままコピーしたり公衆送信するような場合は、原盤権者(レコード製作者)からの許諾も合わせて必要となります。
今回問題となった楽曲を配信しているサイトでは、「利用規約」がしっかりと定められており、この利用規約を守れば、配信楽曲を「利用しても良いですよ」ということになっています。
少し具体的に利用規約を見てみますと、
- 無料で使える
- BGMとしての利用であればコンテンツは自由
- 改変OK
- アレンジ、演奏も自由
以上のように案内されており、ネタのBGMとして使うなら、そのまま使ってもOK、改変(アレンジ)してもOK、であることが伺えます。
しかし、ここに重要な「条件」も合わせて提示されています。
それが、「BGM以外の目的での利用はNG」であり、利用の際には「著作権表示が必要」であるという点です。
今回問題となったのは正にこの2点であり、二次配布というBGM以外の目的での利用と、利用に際して著作権の表示が無かったことにより、著作権侵害の申立になったようです。
利用規約を守っていないということは、著作権者からの利用の許諾が得られていない状態ということになりますので、BGMとして利用(音楽を流す、配信する、コピーする、改変する、など)することは著作権法に違反しているということになります。
既存の楽曲を販売するような場合は、通常は誰が著作権者で、音楽配信やアレンジなどについて許諾が得られているのかどうかを確認するのですが、今回はなぜ確認しなかったのか、あるいは確認した上でなぜ許諾を得なかったのかが疑問です。。。(利用している芸人さん本人が制作したものだと思っていたのでしょうか・・・?!)
著作権表示と氏名表示権
今回問題となった点の1つである「著作権表示」について、著作権法にはこれに関係する条文が存在します。
それが、著作者が有する著作者人格権の1つである「氏名表示権」(法19条)です。
これはその名の通り、音楽など著作物を提供する場合において著作者の氏名(ペンネームなどもOK)の表示を求めることができる権利で、アレンジして生まれた二次的著作物に対しても、そのアレンジ元となった原著作物の著作者は氏名などの表示を求めることができます。
ただ、常に著作者名を表示しなければならないというわけではなく、著作者名を表示しなくてもその著作者の利益を害するおそれがない場合には、公正な慣行に反しない限り表示を省略することができます。(法19条3項)
この代表例が、お店などで流れるBGMについて、いちいち各楽曲の作曲者名などをアナウンスしなくても良い、ということです。
今回の件も、ネタ中のBGMなのだから著作者名を表示しなくても良いのでは?という考えができるかもしれません。
しかし、公正な慣行に合致しているかは微妙ですし、それ以上に著作者名の表示を求めているのは利用規約という契約によるものであるため、著作権法としての解釈よりも、契約上の義務であると言えます。
つまり、19条3項を理由として著作者名の表示を省略することはできないと考えられます。
フリー=自由だけじゃない
今回の件もそうですし、またストックフォトやOSS(オープンソースソフトウェア)においてもそうですが、利用規約やライセンスといった「契約」を守らないと、それにより著作権者からの利用許諾が得られていない状態となり、つまりそれは著作権法違反である、という解釈になります。
フリー素材だからといって、どのようなことでも”自由”であるということではありません。
他人が配布しているものを利用する場合は、しっかりと利用規約やライセンスなどを確認し、それを守りながら利用するようにしましょう。
これでは配布側にとっても利用側にとっても、あまりメリットはありません。
フリー素材を配布する場合は、しっかりと利用規約を定めることをお願いしたいです。