無償提供だけど支払いも必要とは?!音楽の2大著作権使用料

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12月10日、人気バンドGLAYから「ブライダルでの利用に限り著作権料を徴収しない」という発表がありました。

GLAY 結婚式での楽曲使用どうぞ!著作権料徴収せずと発表「無償提供したい」

しかし、ネットでの反応では、完全に無償で利用できるものと勘違いしている見解も多く、かなりの誤解や混乱を生んでいるようです。
また、これによりJASRACを非難する声も聞かれます。

そこで、この話題に関するポイントを簡単にまとめてみたいと思います。

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無償提供の対象は”著作隣接権”

今回のGLAY側(GLAYメンバーおよび音楽出版社でもある有限会社ラバーソウル)の発表において、最大のポイントとなるのが、無償にするとしたのは著作権ではなく著作隣接権、いわゆる”原盤権”であることです。

そのため、音源に対する原盤権については無償で利用許諾されることになりますが、楽曲(歌詞とメロディー)に対する著作権については、GLAY側ではなくJASRACやNexToneが権利者として管理しているため、利用の際には(著作隣接権・原盤権ではなく著作権の利用許諾に対する)対価の支払いが必要となります。

これについては、GLAY側の発表や上記記事の本文内には記されているのですが、上記タイトルだけ読むと原盤権だけではなく著作権についても無償提供されるようにも捉えることができるため、私は非常に問題があるタイトルであると感じていますし、誤解を生んだ元凶であると考えています。

なお、上記記事がおそらく第一報だと思うのですが、その後配信された他のメディアの記事では正しく”著作隣接権”と記されています。

作家の権利と音源製作者の権利

音楽の著作権を考える上でまず知っておくべきことは、作詞者・作曲者が有する財産権としての「著作権」と、歌や楽器演奏を録音しミックスダウンすることで作成したステレオ音源(原盤)の製作者が有する「レコード製作者としての著作隣接権」(業界では「原盤権」と呼ばれます)という、2つの異なる権利が存在し、楽曲の利用方法に応じてそれぞれの権利に対する処理(=申請と対価の支払い)が必要である、ということです。

※上図は一般的な場合で、必ずしもこのようになっているわけではありません。作詞者や作曲者から直接JASRACに譲渡される場合もありますし、第三者がレコード製作者から原盤権を借りたり譲り受けたりして権利行使する場合もあります。

音楽の著作権というと、多くの方がJASRACのことだけを考え、原盤権への対応が軽視されがちです。

著作権については、一般的には作詞者や作曲者から音楽出版社に譲渡され、その音楽出版社からJASRACやNexToneなどに譲渡されます。
つまり、作詞者・作曲者は著作者ではありますが、著作権者ではない状態です。

上記記事へのコメントでも「作った人はお金をとらないのに第三者がお金をとるなんて」というような意見がありましたが、JASRAC等は決して第三者ではなく歌詞やメロディーの権利者(著作権者)ですので、この点は誤解しないようにご注意ください。

例えば、GLAYの大ヒット曲『HOWEVER』は、作詞と作曲をしたTAKURO氏はJASRACの信託者ではないため直接JASRACに権利譲渡することはできませんが、音楽出版社であるラバーソウル社に権利譲渡し、そのラバーソウル社が演奏権についてはJASRACに、録音権など演奏権以外はNexToneに譲渡しているようです。

無償としたのは原盤権に関するものだけですので、著作権に関する利用には対価の支払いが必要です。
その対価としてJASRAC等が徴収した使用料は”印税”として作家(先述の例で言えばTAKURO氏)に支払われることになります。

JASRACに著作権を譲渡することは義務ではありませんし必須でもありません。そのため、完全に楽曲利用を無償にするのであれば、JASRACに権利譲渡せず、無償提供を宣言するという方法もありますが、今回はそこまで無償化に踏み切ったわけではありません。(作家がJASRACと信託契約を結んでいる場合はその契約により原則的にすべての著作権をJASRACに譲渡する必要がありますが、例えばTAKURO氏は契約を結んでいない(無信託)ようですので、JASRACに譲渡しないことも可能となっています。)
なお、JASRACは使用料の徴収を行い著作者に分配することが重要な業務であり、また作家が経済的利益を得るためにも必要不可欠であるため、分配の透明化については十分議論と検討が必要ですが、しかしこの徴収行為自体を否定することは音楽文化発展の妨げとなるのではないでしょうか。

ブライダルにおける”利用”

そもそも、結婚式などにおける音楽の利用とは、具体的にどのようなものでしょうか。

考えられるのは、大きく分けて次の2つの利用方法となります。

・音楽を「演奏」する

この演奏とは生演奏に限らずCDなどの音源を再生することも含まれますが、例えば新郎新婦入場のときに流す、簡単中のBGMとして流す、手紙の朗読に合わせて流す、余興としてギター弾き語りで熱唱する、などが該当するかと思います。

・音楽を「録音」する

これは式の円滑進行のために所有しているCDから使う曲だけをCD-RやiPhoneなどにコピー(ダビング)する、プロフィールDVDの中のBGMとして使う、先述の演奏利用している場面をビデオ録画する、などが該当します。

これらの利用に対して、作家の著作権については演奏利用と録音利用の両方に対して申請・対価の支払いが必要となります。
例えば先述の『HOWEVER』の場合、演奏権はJASRACが管理しているため上記演奏利用に関する分をJASRACに申請し、録音権はNexToneの管理のため録音利用分はNexToneに申請します。

それとは別に、原盤権者の音源を使用する場合(生演奏以外は普通は市販CDなど原盤権者の音源を使用すると思います)は、録音利用する場合のみ申請・支払いが必要となります。
これは、原盤権には演奏権に該当する権利が存在しないため、CDを流すことに対しては原盤権者の権利は働かないためです。

許諾契約している場合もあり

上記の申請は、原則的には利用する者が行うのですが、結婚式場の多くはJASRACと利用許諾契約を結んでいるため、個別に申請などを行う必要がない場合が多いかと思います。
そのため、原盤権使用が無償許諾されるのであれば、特別な手続きは不要ということになります。

ただし『HOWEVER』をはじめGLAY楽曲の多くは録音権はNexTone管理のため、録音権に関する利用を行う場合において結婚式場がNexToneとの契約が無いときは、個別に対処が必要となります。

しかし、一部の結婚式場や、レストランなど式場以外の場所では利用許諾契約が結ばれていないケースもあるため、その場合は個別に対応が必要となります。この点は結婚式や披露宴を挙げる会場に確認しておきましょう。

積極的な利用に繋がるか

このように、ブライダルにおいて市販CDなどの音楽を利用する際には、JASRAC等に対する著作権の処理と、原盤権を持つ会社への処理という2種類の処理が必要となる場合が多いです。

今回のGLAY側の対応は後者のみ無償とするものですが、この対応が不要となるだけでも利用者側にとっては大きなメリットがあるのではないでしょうか。

また、GLAY側にとっても、収益は減るかもしれませんが、原盤の利用申請に対してその都度対処するという運用コストも無視できない大きな負担であると考えられますので、その対応が不要となる点は大きなメリットであるはずです。

今回の発表を契機に、他のアーティストや音楽出版社も同様の対応をとるのか、注目していきたいですね。

※GLAYの楽曲利用については「ブライダルでの楽曲使用に関して」をよく読んで、正しく権利処理してください
※参考: ブライダルでのGLAY楽曲の使用に関して

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