権利者の許諾がなくても著作物を利用できる「制限規定」には、前の記事で紹介したものの他に、次のようなものもあります。
【権利制限規定】(1)(2)
非営利・無償・無報酬の場合の上演等
以下の条件すべてに当てはまる場合に、著作権者の許諾が無くても著作物の上演、演奏、上映、口述を行うことができます。(著作権法第38条第1項)
- 営利を目的としていないこと
- 観客や参観者などから料金をとらないこと
- 出演者などに報酬を支払わないこと
- すでに公表されている著作物であること
一般的には、図書館や集会所における無償での映画上映や音楽演奏、学園祭での映画上映やバンド演奏などが該当します。
この規定は複数ある制限規定の中でも比較的重要なものですが、知らない方も多いのでは無いでしょうか。
ただし、この権利制限を適用するには、いくつか注意点があります。
まず、この規定で権利制限されるのは、著作物の上演、演奏、上映、口述に限っていることです。
つまり、複製や公衆送信、譲渡などは含まれません。
学園祭の様子をビデオ撮影して、後日ネットで公開するというような場合は権利者の許諾が必要ということです。
また、”営利”とは、著作物の利用によって直接的に利益を得ることだけではなく、間接的にでも著作物の利用によって利用者が利益を得ることに寄与しているような場合のことも含まれます。
例えば、音楽を聴かせることによって料金をとるような”直接的な利益”はもちろん、店舗の雰囲気作りのために音楽を流すということも”間接的に店舗の利益に寄与している”ことになりますので、営利目的での利用ということになります。
利益には関係が無いと思われる、株式会社が従業員のためにヒット映画の上映会を開くという場合でも、株式会社というものがそもそも営利目的のために存在している団体であるため、この権利制限を適用することはできません。
”料金”とは、名目は関係なく著作物の利用への対価となるものを指します。
例えば映画鑑賞会を開くために映画DVDを購入し、その実費を参加者全員で分担したような場合であっても、その実費分は参加者から徴収された”料金”と判断されます。
”報酬”についても名目の如何を問わず、いわゆる出演料、ギャラとしての意味をもつ金銭を支払う場合は、この権利制限は適用されません。
いくら「交通費」という形で支払ったとしても、その額が実際に必要であると思われる交通費や社会通念上想定される額を上回るようであれば、交通費ではなくギャラとみなされる可能性があります。
逆に言えば、出演者の「交通費」や「昼食代」としてその実費を支払うような場合は”報酬”には該当しません。
非営利・無償、または家庭用受信装置を用いた伝達
テレビ番組、ラジオ番組など、放送(有線放送を含む)される著作物について、以下の条件すべてを満たす場合は、権利者の許諾無く利用することができます。(著作権法第38条第3項)
- 営利を目的としていないこと
- 聴衆または観衆から料金をとらないこと
ただし、いわゆるパブリックビューイングには注意が必要です。
たとえ非営利目的であり、観客から料金をとらないものであっても、家庭用ではない大型テレビであったり、大型スクリーンにプロジェクターで映したり、オーロラビジョンを利用するといった大きな画面で見せるような場合は、権利者の許諾が必要です。これは生放送であっても録画放送であっても同じです。
これは、著作権としては第38条第3項の制限規定により非営利・無償であれば無許諾で利用できるのですが、それとは別に放送事業者が有する著作隣接権の問題として、映像を拡大するような特別の装置を用いて放送を伝達する権利を放送事業者が専有している(著作権法第100条)ことによるものです。
なお、上記以外でも、家庭用受信装置を用いてする場合も、権利者の許諾無く利用することができます。
※家庭用受信装置とは、一般的に電気屋さんなどで売られている家庭用のテレビやラジオ装置のことです。
この規定により、例えば(営利を目的としている)ラーメン屋さんに置いてある家庭用テレビでお客さんに対してテレビ放送を見せることは合法である、ということになります。
検討の過程における利用
最終的には権利者の許諾をもらうのですが、その前に、検討段階において著作物を利用することができるという規定です。(著作権法第30条の3)
平成24年の著作権法改正により追加された、新しい規定になります。
例えば、ある小説をドラマ化するような場合、その企画をプレゼンする段階で小説の内容を社内で共有したり企画書に掲載したりするような場合です。
ただし、「その必要と認められる限度において」利用できるとされているので注意が必要です。
また、利用する著作物の種類や用途、そして利用方法などにより、著作権者の利益を不当に害すると判断される場合は利用できません。
技術開発・実用化のための試験利用
こちらも平成24年の改正により追加された規定で、著作物の録音や録画のための技術開発や実用化のために行う試験に利用する場合は、必要と認められる範囲内で、権利者の許諾無く利用することができます。(著作権法第30条の4 ※)
例えば、テレビ番組を録画する機器を開発するような場合では、実際に著作物であるテレビ番組を録画・再生してみないと動作検証できませんので、そういった場合に無許諾で利用できることになります。