衣装も著作物!?コスプレと著作権と町おこし

出典: Pixabay
先日、”コスプレで町おこし”といった記事が出ており、それに対して”安易にコスプレで町おこしと考えない方が良い”という記事が配信されているのを読みました。
・B級グルメ、ご当地キャラの次に来る? 「コスプレ」に力を入れる自治体が続々!(nikkei BPnet)
・安易に「コスプレで町おこし」と考えない方がいいと思う件 (Yahoo!ニュース)
その町おこしという行為自体の是非はともかく、ここで気になるのは「コスプレ衣装、そしてコスプレイベントにおける著作権」です。
コスプレとは、マンガやアニメ、ゲーム等のキャラクターの容姿を真似ることですので、当然そのキャラクターが着用している衣服もそっくりに作る、つまり著作権法の用語で言えば「複製」(場合よってはさらに「翻案」)を行うことになります。
その場合、キャラクターの衣服が著作物であるならば、権利者の許諾無しにコスプレ衣装を作成することは複製権や翻案権の侵害となる可能性が考えられます。
目次
3行でまとめると
- キャラクターの衣装は著作物であると考えられる
- イベントなどで多数に見せることはグレーゾーンで、多くの場合、権利者が黙認していると考えられる
- 直接的に著作権侵害を行っているのは衣装製作者だが、コスプレの場を提供した自治体も責任を問われる可能性も?
そもそもキャラクターの衣装は著作物か?
複製権や翻案権の侵害だと言う場合、コスプレ衣装の元となっている、キャラクターが着用している衣装が著作物であることが必要です。
では、アニメやマンガ等で描かれている衣装は著作物なのでしょうか?
原則的には著作物である
まず、描かれたキャラクターは、著作物の定義である”思想又は感情を創作的に表現したもの”であると思いますので、原則的に著作物だと考えられます。
そして、衣装とはそのキャラクターを構成する要素の一部となりますので、コスプレ衣装を作るということはその一部の要素を複製することになります。
つまり、無許諾で行えば複製権の侵害となる可能性が出てきます。
意匠権で保護すべきという考え
ただ、衣装だけを見た場合、そのデザインは著作権ではなく「意匠権」で保護するものという考えもあります。
それは、衣装というものは実用(着用する)に供される工業デザインとして生まれるものであって、鑑賞を目的とした美術作品として作られる訳では無いためです。
なお、こういった実用に供されるデザインは「応用美術」と呼ばれ、鑑賞目的などの美術作品は「純粋美術」と呼ばれますが、著作権法で保護される著作物となる美術作品は「純粋美術」のみであり、衣装デザインといった「応用美術」は著作物では無いとされ、過去の裁判において著作権法では保護されないものとされてきました。
その代わりに、応用美術ではあるが保護する必要があるのであれば、意匠登録によって意匠権を得ることが一般的となっています。
しかし、最近では応用美術であっても著作物だとする裁判例(「TRIPP TRAPP事件」知財高裁平成27年4月14日判決)もあり、一概に”応用美術であれば著作物ではない”とは言えない状況となっています。
私的使用であればOK
このように、キャラクターの衣装が著作物であり、衣装を作るという複製行為を無許諾で行えば複製権の侵害となる可能性があります。
ただし、著作権法第30条により、私的使用であれば権利者の許諾は必要ありません。
業者に依頼する場合は要許諾
ただし、私的使用の規定が適用されるのは、コスプレ衣装を着る本人が衣装を製作した場合です。
知人に依頼する、くらいであれば問題ないかと思いますが、企業などが営利目的としてキャラクターなどのコスプレ衣装製作を受注したり、自社の企画として製造販売するには、著作権者の許諾が必要です。
たとえ実際に着用するコスプレイヤー本人からの依頼であっても、実際の複製行為を行うのは企業であるため私的利用のための複製には該当しません。
これは、以前話題となった「業者による自炊代行」に関する裁判と同じ趣旨です。
イベントへの参加は?
コスプレイヤー本人が衣装を製作したとしても、大きな問題があります。
それは、コスプレイベントやコミケなどで多数の人にその衣装を見せるために衣装を製作することは、私的使用のための複製ではないことです。
私的使用とは、個人または家庭内、およびそれに準じた範囲で使用することですので、多数の人前というのはこれに該当しません。
商売目的ではなくお金も貰わないから”私的”使用だと考えがちですが、私的使用の範囲は意外と狭いので注意が必要です。
また、コスプレイベントなどのためではなく、あくまで個人で着て楽しむために衣装を作成したとしても(ここまでは私的使用のため合法です)、それをSNSやブログなどにアップロードすることはできません。(複製物の目的外使用等。著作権法第49条)
実際にはグレーゾーン
しかし、実際にはコスプレイベントにおいてマンガやアニメの権利者から中止や警告を受けたという事例はほぼ無いものと思われます。
著作権法は親告罪であるため、権利者からの告訴があって初めて警察が動き、そして権利者からの賠償や差し止めの請求があって初めてコスプレイヤーが賠償などの責任を負います。
権利者から何のアクションも無ければ、つまり”黙認”している状態であれば、コスプレイヤーには影響はないということになります。
しかし、無許諾で衣装を製作しているのであれば、違法は違法です。
権利者が黙っているからといって、問題ないわけではないことは留意する必要があります。
この辺はコミケ文化にも通ずるところがあると思いますが、権利者が黙認してくれていることに感謝しながら、楽しく著作物を利用できれば文化の発展に寄与するものと思います。
自治体が主導するのは違和感
記事冒頭の話に戻りますが、上記の通りコスプレ自体がグレーゾーンのような権利者の黙認によって成り立っている一面があることから、厳密に言えば違法行為を行う人たちを集めてイベントを開催するということを自治体が率先して行うことには違和感を覚えます。
もちろん、権利者の許諾を得ていれば問題ありません。
しかし、自治体がそこまで考えて対応しているのかはわかりません。
さらに、実際には無いと思いますが、仮に「カラオケ法理(※)」が適用されるのであれば、違法行為を行う場を提供し違法行為を幇助したとして、コスプレイベントを主催した自治体も著作物の利用主体だと認定され、何らかの刑罰が科される可能性も考えられます。
「クラブキャッツアイ事件」(最高裁昭和63年3月15日判決)によって示された考え方で、カラオケスナックにおいて有料のカラオケを歌っていた客ではなく、そのカラオケ装置を設置し利益を得ていたカラオケスナック経営者に対して著作権(演奏権)侵害による損害賠償請求を認めました。
歌うという行為によって直接的に演奏権を侵害していたのは客のほうですが、店側による誘致や営業活動によって引き起こされた侵害であるため、その侵害行為の主体は店側だと判断されました。
アニメやマンガ、ゲームといった他者が創作した著作物に単に便乗しているだけのイベントではなく、真の町おこしに繋がる企画を考えてほしいと思っています。