クラシック音楽には著作権が無い、という誤解

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先日、既成の音楽をBGMとして流していながら著作権使用料を払わない事業者に対して、日本音楽著作権協会(JASRAC)が民事調停の申立をした、というニュースがありました。

日本音楽著作権協会(JASRAC)は9日、音楽著作権の手続きをしていない美容室や飲食店など258施設にBGMの使用料の支払いなどを求め、東京簡裁など15都道府県の簡裁に民事調停を申し立てたと発表した。

産経ニュース  2015.6.9「BGM利用で調停申し立て 15都道府県でJASRAC」より引用

ネット上の反応では、このニュースを見て、お店でBGMとして音楽を流す際にもJASRACにお金を払う必要があるのか、と初めて知った方も少なくなかったようです。

それに関連して、”クラシックのCDなら著作権は無いから自由にBGMに使える”、という意見もありましたが、果たしてそれはどうなのかを考えてみます。

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JASRACに支払わなければならない理由

クラシック音楽に関する話の前に、そもそもお店でBGMを流すのに、なぜJASRACに支払う必要があるのかを考えてみます。

自分でお金を払って購入したCDをただ流しているだけなのに、なんで追加でお金を取られるのか?」と思った方も多いと思います。
二重にお金を取られているようで、何となく腑に落ちない感じがしてしまいそうですよね。

ですが、著作権的には、公衆に対して音楽を流す、音楽CDを再生するという行為も音楽という著作物の「利用」行為であり、その利用には原則として著作権者の許諾が必要となります。
その根拠となるのが、著作権法第22条の「上演権および演奏権」で、CDを流すという行為も「演奏」とみなされるため、この条文が適用されます。

法では演奏権の適用があるのは「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」とされていますので、公衆ではない場合には適用されません。自分で買ったCDを自分で聴くような場合は許諾は不要です。

公衆とは、著作権法の一般的な解釈では「不特定の者または特定多数の者」とされているため、美容院や飲食店で音楽を流せば、ほぼ間違いなく公衆に対しての行為となります。

条文では”公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として”とあるので、自分で購入したCDかどうかは全く関係なく、とにかく公衆に対して聞かせるのであれば権利者の許諾が必要です。

多くの場合、作詞者や作曲者は、自身が持つ著作権(著作者人格権を除く)をJASRACに対して信託譲渡しているため、JASRACが権利者となっています。

直接JASRACに譲渡している場合もありますし、音楽出版社を通じて譲渡されている場合もあります。
なお、作詞家・作曲家など作家のすべてがJASRACに権利譲渡しているわけではなく、作家自身や関連事務所などが管理している場合も多く、またJASRAC以外にも集中管理団体としてNexTone社がありますので、NexTone社に管理を委託している場合もあります。
つまり、「誰が権利を管理しているのか」に留意する必要があります。

譲渡する権利は選択できるのですが、多くの場合演奏権も譲渡されているため、JASRACが演奏権を行使でき、許諾の対価として使用料を徴収する、ということになります。

クラシックには著作権は無いのか?!

このようにJASRACが行使する演奏権ですが、もちろんJASRACが演奏権を行使できな場合というのも存在します。
著作権者が演奏権を譲渡していない場合もそうですが、ここでポイントとなるのが「そもそも著作権が無い」場合です。

著作権というものは著作物の創作と同時に自動的に発生しますので、著作権が無いという状態になるのは、著作権者が権利を放棄した場合と、著作権の保護期間が経過した場合、ということになります。

著作権法では「放棄」に関して明文化されていませんが、基本的に財産権であるため放棄ができると解釈されています。実際には、自信の権利を行使しないという意思表示をした状態、ということになります。

著作権の保護期間は著作者の死後70年までとされており(→保護期間について詳しくは「著作権の保護期間」参照)、一般的に思い浮かべる”クラシック音楽の作曲者”は70年以上前に亡くなっていることから、クラシックには著作権が無い(=保護期間が切れている)と考えている方が多いと思います。

確かに、ベートーヴェンやモーツァルトといった多くのクラシック曲の作曲家は亡くなってから70年以上経過しているため、著作権の保護期間は経過しています。そういった点では、これらの作曲家の作品については著作権が切れていると言えます。

ですが、いわゆる”クラシック音楽”の作曲家すべてが死後70年経過しているわけではありません

例えば『剣の舞』。タイトルは知らなくても、曲を聴けば多くの方が知っている曲だと思います。


(ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の公式YouTube チャンネルより)

管弦楽曲(いわゆるオーケストラが演奏する曲)であり音楽の授業で取り上げられることもあるため、この曲は「クラシック音楽」だと思っている方は多いのではないでしょうか。
でも、この『剣の舞』作曲者であるアラム・ハチャトゥリアンは、1978年に亡くなっています。
つまり、2023年現在でも、著作権の保護期間内の楽曲です。
さらに言うと、JASRACの管理楽曲でもあります。

このように、一般の人が”クラシック音楽”だと認識している曲でも、著作権保護期間内の曲というものもあります
よって、クラシックには著作権は無い、というのは正しくないことになります。

日本BGM協会のサイトでも、著作権Q&Aにて間違いだと指摘しています。
Q65 クラシック音楽には著作権がないので、BGMやCMに自由に使えると聞きましたが、本当ですか?

著作権が無くても著作隣接権があります

このように、作曲者の死後70年以上経過した楽曲であれば、BGMとしてお店で流すことができます。

ですが、気をつけなければならないのが、BGMとして流す”だけ”なら可能、ということです。

クラシック音楽のCDであっても、その曲を演奏した人がいて、その演奏を録音してCD原盤を作成した人がいます。
その原盤を作成した人が持っているのが、著作隣接権の一つである「レコード製作者の権利」の中の複製権(著作権法第96条)や公衆送信権(同96条の2)などです。

「原盤権」と呼ばれることも多いです。

レコード製作者が複製権を持っているということは、そのレコードの複製が無許諾ではできないということですので、例えば動画作品の中に市販CDのクラシック曲をBGMとして利用(=複製)することは原則としてできません。
また、公衆送信権により、インターネットの動画サイトやSNSなどに無許諾でアップすることもできません。

ただし、引用(著作権法32条1項)や、いわゆる”写り込み”(法30条の2第1項)などの要件を満たす場合は無許諾でも利用可能となる場合がある他、音源素材CDなどのように複製利用が予め許諾されているものは利用することができます。

著作権がOKであっても、著作隣接権でNGな利用行為もありますので、利用する際はよく注意し、詳しくは専門家に相談しても良いと思います。

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