商品パッケージデザイン類似裁判から学ぶ、著作権契約の重要性

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出典: Pixabay

一見すると非常に似ているように感じる、2つのデザイン。
これらは、あぶらとり紙の表紙デザインなのですが、これらのデザインが酷似しているとして、左のデザインの著作権者であると主張する原告が、右デザインの製品を販売する被告に対し損害賠償を求めた裁判がありました。
(平成28(ワ)16088号 著作権侵害損害賠償請求事件 平成29年3月23日 東京地裁判決。判決文はこちら。)

裁判の結果としては、原告の請求はまったく認められず、原告の完全敗訴となっています。

非常に似ているように見えるのに、なぜ裁判に負けたのか?
そのポイントから、企業が留意すべき知的財産の契約についても考えてみます。

3行でまとめると

  • 複数の争点のうち重要な1点を立証できないことで敗訴
  • 著作権者でなければ著作権侵害訴訟で争えない
  • 契約や証拠を残しておくことは重要

裁判所の判断はただ1点

原告による提訴に対し、被告は以下の4点について争っていました。
(1)原告デザインの著作物性
(2)原告デザインの著作者と著作権者
(3)被告デザインの依拠性
(4)原告が請求してきた損害額

なお、被告はデザインの類似性は争っていないようです。

これらが争点となったのですが、判決において裁判所が検討し判断を下したのは、実は「(2)原告デザインの著作者と著作権者」についてのみでした。

4つもある争点のうち、1つしか検討されていないのは疑問に思うかもしれませんが、大きな理由として、著作権侵害について訴えを起こすことができるのは権利者のみであることが挙げられます。

つまり、そもそも原告が原告デザインの著作者や著作権者ではない場合、この訴訟を起こす根拠、権利が無くなってしまうことで、他の争点について検討する必要がなくなる、ということになります。

原告が原告デザインの著作者または著作権者であることが認められてはじめて、著作権法を基に(2)以外の争点について判断することになるのですが、この点において原告の主張が認められなかったため権利者とはみなされず、それをもって原告敗訴という判決になっています。

判決文においても、「原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する」となっています。

よって、裁判所は、2つのデザインが似ている・似ていないという点や、原告デザインが著作物か否かという点については、まったく判断、言及していません。

意外な落とし穴

原告としては、これだけデザインが似ているのだから、ある程度の損害賠償は請求できるだろうと考えていたのかもしれませんが、実際にはもっと根本的な部分で躓いてしまいました。

なぜ原告が著作者または著作権者と認められなかったのか。
それは、十分な証拠を提示および立証できなかったことが大きな要因だと考えられます。

筆跡鑑定では著作者を判断できない

まず、原告のデザインは、原告社長Aの友人であるB氏がデザインし、著作権はB→A→原告の順で譲渡されたと主張しています。
しかし、肝心の証拠が提示されませんでした
これでは、本当に著作権がBから原告に渡ったことが立証できません。

そこで原告は、原告デザインの文字と、Bが書いた別の文字とを筆跡鑑定した結果、同一人物が書いたものであるとされたこと、そしてBが原告デザインの文字を再現できることを主張しました。
しかし、裁判所はこれを認めませんでした。(著作権侵害損害賠償請求事件 平成29年3月23日 東京地裁判決より引用。なお「本件著作物」とは原告デザインのことです。)

上記「ふるや紙」と「ふろや紙」等の文字は一見類似するといい得るものの,本件著作物の作成者以外の者が本件著作物をまねて後者を作成したとみる余地があり,類似すること自体は本件著作物の作成者が B であることの根拠となるものでない。
(中略)
原告の依頼による筆跡鑑定(甲 24)は,毛筆等の筆記具で記載された原画ではなく,単色で印刷されたデザイン画を比較したにとどまり,筆致等は不明であること,デザインの過程で加筆修正が施され得ることを考慮すると,その鑑定結果により本件著作物の作成者を判断することは相当でない

本当の著作者以外の人が真似て書くことも考えられるし、そもそも筆跡鑑定で著作者は判断しないとして、原告の主張を退けています。

主張の裏付けができない

上記の点に加え、原告の主張には弱い点もありました。

原告の

「うちの製品の製造を被告に委託した。そのために原告デザインの原画を被告に渡した。」

という主張に対し、

  • そもそも被告はそのような委託を受けていないと主張。(被告商品を原告に販売していた)
  • 仮に委託していたとしても、被告との取引が終わった時点で原画の返還などに関する話が出ていない

以上のことから、裁判所は原画の存在自体が定かで無いと判断し、原告の主張を退けています。

実際、原画は証拠提出されていないようです。

また、原告が著作権者であるとしたらなぜ被告の商品に意義を唱えなかったのか?という点に対して、原告は

「被告の商品は平成3年~12年頃に販売されたものだから知らなかった」(原告商品は昭和51年2月頃に被告に製造を委託)

と主張しました。
しかし、原告は土産物店を経営しているのだから、20年間にわたり毎年100万冊が販売されたという有名な被告商品を知らないというのは不自然であると判断されました。
しかも、この「20年間にわたり毎年100万冊が販売された」ことを主張したのは原告自身(※損害賠償額の算定のため)であるため、結果的には自身に不利に働いてしまったようです。

以上のことから、原告の主張は認められず、結果として著作権者としても認められませんでした。

証拠の重要性

デザインが似ているからと言っても、著作権侵害が認められるとは限りませんし、裁判に勝って相手から賠償金を取れるとは限りません。
つまり、自身が正当な権利者であり、被告側が権利侵害しているということをしっかりと立証できなければ意味がありません

原告デザインの著作権がBからAに、Aから原告に譲渡されたことを証明できる契約書が存在すれば、この裁判の結果は変わったかもしれません。
原告デザインが表紙となったあぶらとり紙の製造を被告に委託したということが証明できる契約書が存在しても同様です。

裁判では、被告による被告商品のデザインについての主張が変遷したり、そのデザイン作成時期が不明であるなど、被告側にもある程度の弱点があったにも関わらず、それ以上に原告の立証責任が不十分であったことになります。

パッケージデザインに限らず、企業の大切な知的財産である著作物の権利が侵害されたような場合に備えて、企業は十分な証拠を確保しておくことが非常に重要だということがわかる裁判だったのではないでしょうか。

パッケージやロゴなどのデザイン作成を、知り合いのデザイナーに口約束だけで依頼していたような場合などは、今からでもしっかりと契約を締結しておくことをお勧めいたします

このブログでも何度も言及していますが、お金を支払っただけでは著作権は発注者に移転しません。譲渡する契約が必要です。
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