講演やスピーチの無断配信はダメ!賠償責任を負わないために知っておくべき公衆送信権

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出典: 足成

毎日日本中のどこかで開催されている講演会やセミナー。
大きな会場で大勢が参加するものから、少人数で開催するものまで、有料無料を問わず多数開催されています。

そんな中、とある講演会の様子を、講演者に無断でインターネットにてコメント付きで生配信したことで訴訟となった事件の判決が出ており、配信を行った被告に賠償責任が課せられました。
(平成28年(ワ)第11697号 東京地裁平成28年12月15日判決)

現在では誰でも簡単に全世界に向けて動画配信できる時代になり、有名人のセミナーやスピーチなどについても不特定多数の人たちで視聴したいと考えている方もいると思いますが、それは著作権法という観点から見ると、決してお勧めはできない行為です。

3行でまとめると

  • 講演やセミナー、スピーチなども著作物となる
  • 登壇者(話者)に無断で配信することは公衆送信権の侵害となる
  • 非営利目的の配信でも損害賠償責任を負うことがある

講演やスピーチは著作物

まず重要な点としては、講演やセミナー、スピーチなどで話した内容は原則として著作物である、ということです。

著作物というと、音楽や小説、マンガ、絵画といった芸術的なものを想像しやすいと思いますが、実はその定義は広く、”思想又は感情を創作的に表現したもの”(著作権法2条1項1号)が該当します。

また、著作”物”という漢字から、CDや本、キャンバスといった物体に記録・表現されているものというイメージがありますが、このように”固定”されたもの以外にも、例えば音楽であればCDなどには録音されていない生演奏など、形として残らないものも著作物となります。

そのため、講演などの場で”話す”(=口述)ことによって表現されたものは、「言語の著作物(著作権法10条1項1号)として著作権法で保護される著作物となります。

原則として著作者の許諾が必要

このように、講演などが著作物であるという場合には、その講演を行った者が著作者となり、話した内容について通常はすべての著作権を有することになります。

つまり、その講演を利用する場合には、著作者の許諾が必要ということになります。

インターネットで配信するということも著作物の利用行為ですので、著作者である話者に無断で行うことはできないわけです。

なお、ネット配信サイト(今回の事件では「ツイキャス」を利用していたようです。)を利用して無許諾で配信することは、著作権の支分権の一つである「公衆送信権」の侵害となります。

(参考)公衆送信権

今回の事件では生配信しただけですので、関係するのは公衆送信権だけですが、講演などを録画してから配信したような場合は、公衆送信権に加えて「複製権」侵害となる場合があります。

ちなみに、今回の事件はネット配信に関してですが、講演の内容をテキストにしてブログに掲載する(いわゆるテープ起こし・文字起こし)ということも、講演者など権利者の許諾が必要です。
無許諾で行うと複製権と公衆送信権の侵害となる場合があります。

制限規定も適用できない

ただ、著作権法には、著作権者の許諾なく著作物を利用できる規定(制限規定)が複数あります。

その制限規定を適用すれば、今回の生配信という行為も無許諾で行うことができるのではないでしょうか?

実際、今回の裁判での被告となった配信者も、次のように主張しています。
(※この記事における判決文は、すべて「平成28年(ワ)第11697号 東京地裁平成28年12月15日判決」(判決文はこちら)からの引用です。)

憲法改正が国民の重大な関心事となっていることからすれば,憲法改正に向けた活動において重要な役割を果たしていると考えられる原告Aの講演内容,その余の原告らの発言内容が著作権法41条の「時事の事件」に該当することは当然である。

著作権法41条では「写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。」とされており、報道の目的であれば無許諾で利用できるとされています。

しかし、裁判所は次のような判断で、この被告の主張を退けています。

本件講演それ自体が同条にいう「時事の事件」に当たるとみることは困難である。これに加え,同条は,時事の事件を報道する場合には,当該事件を構成する著作物等を「報道の目的上正当な範囲内」において「当該事件の報道に伴って利用する」限りにおいて,当該著作物についての著作権を制限する旨の規定である。本件配信は,約3時間にわたり本件講演の全部を,本件コメントを付して配信するものであるから,同条により許される著作物の利用に当たらないことは明らかである。

41条により許される利用に当たらないことは明らかであると切り捨てているように、確かに単に配信しているだけでは報道に伴って利用しているとは考えられませんので、この41条の制限規定を適用することは難しいです。

非営利配信であってもダメ

制限規定が適用できない以上、著作権者の許可なく利用(=配信)した時点で、公衆送信権の侵害であると言えます。

このように著作権侵害があった場合は、侵害者に対して損害賠償を請求することが多いですが、ここで問題となるのは、賠償を要求することとなる”損害”の算定です。

配信した被告側にとっては、無料で誰でも視聴できる形で配信しており、この配信によって経済的利益を得たわけではないようです。そのため、損害額については争ったようです。

しかし、たとえ利益がなかったとしても、損害は損害
被告は講演会の参加費(1,000円)を支払って参加している点、配信の視聴者数、配信は音声が中心であり映像では講演会の模様を識別できない点、そして講演者各自の講演時間などから検討し、弁護士費用も含めて原告一人あたり4,000円~70,000円の損害額を認めました。

実際には、上記賠償額に加え、損害のあった日、つまり講演会が開催された日から実際に賠償額を支払う日までの日数に応じて年5%の遅延損害金が課されています。

なお、原告側は精神的損害の賠償も求めましたが、それは認められませんでした。

「ラスボス」は「見せ場」!?

著作権とは全く関係がありませんが、この裁判において争点となった1つとして、興味深いものがありました。

それは、講演者Aさんに対して配信中に「ラスボス」とコメントしたことについて、この言葉は悪意を込めた言葉でありAさんの名誉声望を害するものなのか否かという点です。

Aさんとしては、ラスボスとは悪意がある言葉として、名誉が傷つけられたことに対する謝罪広告の掲載を求めました。

被告は,原告Aの講演の際に「ラスボス登場」等のコメントを付して本件配信を行っているところ,「ラスボス」がコンピューターゲーム等において「最後の強大なる悪役」,「打倒すべき敵」として悪意を込めた用語であることからすれば,本件配信は原告Aの名誉又は声望を害する方法で行われたものであり,原告の著作者人格権が侵害されたことは明らかである(著作権法113条6項)。よって,原告Aは被告に対し,名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めることができる。

しかし、裁判所は、その訴えを認めませんでした。

一方,証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,この表現は人の社会的評価を低下させる趣旨で使用されない場合もあると認められるのであり,本件においても,前後の文脈及び別紙2記載のコメント内容に照らせば,原告Aの講演が本件講演会の見せ場であるという趣旨で「ラスボス」との表現が使用されたと解する余地もある。

原告側が「ラスボス=悪意がある」ことを裏付ける証拠を提出していないこともありますが、裁判所としては「ラスボス=講演会の見せ場」との意味もあるのでは?という判断のようです。

皆さんは、「ラスボス」という言葉にどのような意味を感じるでしょうか?

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